�ێq���K


 真打登場。

 そしてレールに引かれた人生から外れなければならない。

 言わば未知の領域だ。エイデンは実体験よりも凶悪に描く予定だったから、もしもその通りに進められるなら帰りたい。

 出来るだけ心掛けねばならぬのは、「終始一の如し」だ。


「墓荒らしよ、お前は何故人を殺した」

 出された料理は、食には余り興味がなかった為、牛のステーキとしか解らない。エイデンは平然とそれを租借しながら問う。

 食事の時にしたい話ではない。無論手は付けられない。

「俺は殺していない」

「だが、お前の服装は血塗れだったぞ?」

 そう言われて、今着ている物がさっきまでのと違っている事に気付いた。

「誰かが……俺を嵌めた」

 通じない事は解っている。

「お前が刺したであろうナイフも見付かっておる、それを、誰が嵌めたと言う?」

「じゃあ、俺が彼を殺した場面を見た人間は居ましたか?」

 するとエイデンは言い淀んだ。

「今探しておる。直、見付かるじゃろう」

 言い返せた事に多少喜び、俺は料理に手を付けた。

 味は、解らなかった。

 強いて言うのなら、血の味。

「では、どうしてお前を嵌めた?」

「……都合が、良かったから」

「はて?」

「俺はこの街に着たばかりの人間。異邦人だ。誰も俺の人柄を知らないのならば、俺にしてしまうのが一番いい。俺の身の潔白を証明しようとしてくれる人間が、圧倒的に少ないからだ」

 すると彼は納得するように、まじまじと俺の目を見た。

 だがすぐに、こう切り返す。

「質問を変えよう。お前が嵌められている事に気付かないのはよかろう。だが、何故あのような事態に至ったのだ」

 普通の質問だ。

 だから答えられない。

 記憶に無いとは、言えない。


 そうするとエイデンは、非常に気味の悪い笑みを浮かべた。


「答えられんのだな? 矢張りお前がやったのではないか?」

「だから違」

「じゃあ何故答えられないのだ。疚しい事がなければ何でも言えるだろう。自らの潔白がかかっておるのだ。尚更だ」

「ですから」

「なんだ、申してみろ」

 で、結局。

 答えられない。

「お前が殺したんだ、殺人鬼」

 エイデンはいつの間にか、俺の目の前に居た。


「アリス、ワシは彼の隣で食べる」

 アリス――!?

 いや当然だ。彼女はここで働いている。ならば、当然と言えば当然である。給仕など、居るに決まっている。

 どこまで知っていた、このジジイ。

「畏まりました」

 アリスは短くそう言って、彼の目の前へと食器を持ってくる。

 彼女を凝視していると、目が合った。

 その目は、とても、悲しそうだった。

 俺は――、していない、何も。

 俺は。

「美人じゃろう? 街で一番美しい女だ」

 エイデンが笑う横で、アリスは食器を彼の机の上に並べ直す。

「お前が見蕩れてしまうのも仕方ない」

 アリスが食器を置き終わるの見てか、エイデンの手が伸びた。


 アリスの臀部を、弄った。

 アリスは敏感に仰け反って、「お止め下さい」と小さな声で拒否した。手で抵抗しようとするが、強くはない。雇い主だからだ。

 この街の、ルールだからだ。

「ほれ、良いじゃろうこの女は、最高の素材だ」

 俺は口が開けない。

 止めろ、止めろと何度も念じる。

 そんなもの糞食らえと、エイデンは続ける。

「ほれアリス、、ワシのを咥えろ」




「てめえ巫山戯るな」

――思わず俺は叫んで――次の瞬間。

 エイデンの顔をぶん殴った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る