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 街の憲兵みたいな奴等が数人来た。何か叫び声を上げて、俺をぶん殴った。痛みは不思議と感じなかった。血溜りに倒れ込んだ俺を、今度は数人の憲兵が俺を押さえ込んだ。両手両足に錠をされ、その上目隠しまでされた。

 暗い世界で、俺は馬車か何かに乗せられた。

 名前を問われ、俺は答えられなかった。あれ、え。

 止めてよ。

 やだよ待ってよお願い。

 ジェイルと話さないと。

 本屋で働かないと。

 アリスを。


 どこか解らないが、椅子に縛り付けられた。

 男の怒声が聞こえる。

「おいっ! なんで殺したッ! 彼は、ジェイルは真面目な好青年だったッ!!」

 は?

 さっき殺したのがジェイルだって? 馬鹿言うなよ。

 だって、可笑しいだろ? 彼が居ないと、話は進まない。ジェイルが居ないと俺は孤立したままになる。ジェイルが居ないと俺がアリスに、アリスが、だって、俺はアリスと、だって、ねえ?

 何でこんな目に。

 俺が可笑しかったか? どこかで間違ったのか?

 馬鹿が。

 そんな筈ないだろう。間違う筈がない。間違えようとしても間違えられない。だってもう決まっているんだから。決まっている筈だよな? 決まってなきゃ可笑しい!

 堪らなくなって涙が流れる。

「泣いてないで説明しろッ! 自分が何したか解ってるのかッ!?」

「あ、あの」

 憲兵の怒声を、別の声が遮る。

「なんだ」

 素気なく返す憲兵。どうやら、一番偉い人らしい。憲兵ってあれか。じゃあ少佐とかかな?

「ジェイルと言うのは、その、男性でいらっしゃいますか?」

「貴様、何を言っている。ジェイルは男だっただろう」

 あれ、何で話せるの。

 何で奴らの言葉解るの。

 解んないよ。

 クソ。

「いや、その、誰も覚えていないようで」

「……いや、すまない、俺も自信がなくなってきた」

 何だよこいつら。ジェイルは俺の親友だぞ。ふざけやがって。勝手な事言いやがって。

「だが死体を確認すれば」

「無理です、その男が余りにも、無惨に」

「…………誰か知っている者はいないか!」

「ジェイルは男だ」

 俺が言うと、顔面に鈍痛が走った。

「貴様、よくもそれが言えたな……」

 手足が縛られている上目も見えない。その状態からの暴力は、想像以上に怖い。

 呻き声を上げた方が痛みに耐え易いと、初めて知った。

「動機を言え……殺人鬼……!」

 男の手と声は震えていた。

 もしかして、こいつラザースか? 俺とアリスの家に強盗が侵入した時に助けてくれる奴だ。

 いや、間違いない。

 街の事に逐一反応して、犯罪者に対しては容赦ない。しかし住民達を心から愛しており、彼も同様に皆を愛している。

 疑われもするが、一度俺じゃないと解ると優しく接してくれる男だ。その後、また俺に疑いの目が向けられた時も、彼は一番に否定してくれたんだ。だけどごめんな、その時盗んだの本当は俺なんだ。

 俺が何も言わないのに痺れを切らし、「牢に入れろッ!」と叫んだ。


 両脇を抱えられ、引き摺られるように運ばれた。

 俺は牢屋らしきところに、強く投げ込まれる。

 殴られ続けた右頬を庇って倒れたが、上手くいかない。右頬への激痛は免れない。

 牢の扉が閉まる音がして、

「待ってお願い! 助けて!」

 と叫んだ。

 しかし誰も反応してくれなかった。

 頬が痛い。


 頼む。頼むよ。

 アリスを、どうか。

 アリスを。

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