1.2


「まったく、普通にわたくしを待ってくださればよいではないですか。『自転車は後ろに乗るとお尻が痛そう』だなんていうから、今日はバイクにしましたのに」


 そう怒りながらもスコーンと紅茶を振舞ってくれるメイドさん――茜さんは、手際よく机にカップとスコーンの乗った皿を並べていく。香ばしい香りが、ふかふかのベッドに少し広めの折りたたみ式のテーブル、そして壁を埋め尽くす大量の本棚たちいうシンプル(?)な部屋の中をめぐっていく。


 それを見ていたあんずが、私に少し白い顔をしてひそひそと言う。


「紫、次からは自転車にしてもらったほうがいいよ。……茜さん、昔はぼーそー族だったらしいから。一度バイクに乗ると、止まらなくなるよ」


 ぼーそー族?


 頭の中ですぐさま「暴走族」に変換される。……寒気。

……通りでいつもと殺気の量が違っていたわけだ。


「すみません、次から自転車でお願いします」


 素直に頭を下げる。静かに微笑む茜さん。

 すべての支度を済ませた後、では、と茜さんは出て行った。

 私たち二人と、ベストなタイミングで入れられた紅茶、まだかすかに湯気を立てるスコーンだけが残される。


 にやり、あんずが笑う。獲物を見つけたケモノみたいだ。前かがみになったあんずから小さく金属音がして、首から銀色のチェーンが滑りでてくる。


 そのヘッド、銀色の指輪で輝くのは、暗めの赤――ガーネットだ。

 そんな素敵な笑顔のまま、あんずは言った。


「……で、今日は何するの?」

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