第24話 副団長と試合しました

 さて、雑兵を倒した俺達は宮殿の中へと進んでいった。そこは白で統一された調度品や様々な風景が描かれた絵画などが飾られていた。


「へー、綺麗なところですねぇ。あ! あの絵は中央大陸の物ですね。あっちには南方大陸の品がありますよ! いやー、ここには世界中の物があるようですね」


 はしゃぐおさげに対して、少し嬉しそうに飛竜が答えた。


「はい。ここに飾られているものは、以前、竜王様が世界中を旅していた時に集めた物だそうです」


「へー」


 飛竜の説明に俺は辺り眺めながら答えた。おさげは変わらずにキョロキョロして何やらはしゃいでいるようだ。と言っている間に、広間のような場所に辿り着いた。


「ここは?」


「ここは闘技場です」


 さも当然のように飛竜は答えたが、なぜ宮殿の中に闘技場がある? と、そんなことを疑問に思ってると、そんな考えを察したように飛竜が補足してきた。


「ここは、主に騎士達の訓練に使われている場所です。そして、王の間に行く為には必ず通る必要があります。つまり、ここで騎士と戦っていただき、資格ありと認められれば、王の間への扉が開かれるのです」


 そう言って飛竜は部屋の奥にある大きな扉を指し示した。ふとそちらを見ると、近衛師団らしい集団がこちらに向かって来ていた。


「あれは?」


「あれが次の対戦相手である、副団長率いる精鋭達です」


 ざっと見てみると、先程戦った奴らとは雰囲気が違う。こちらに敵意のようなものがあるのは変わらないが、油断などは感じられなかった。その中でも一際目を引くのは、恐らく副団長だろうと思われる人物だ。銀色の長髪を後ろで括っており、白いチェインメイルのようなものを身に着け、自身の身長と同程度の十文字槍を片手で持っていた。明らかに他とは違い、何処か余裕すら感じられる。そう観察していると、その人から声を掛けられた。


「貴方が今回の使者の方ですか?」


「はい」


「そうですか。では、私は近衛師団副団長を務めていますサリュートです。よろしくお願いしますね?」


 そう言ってサリュートさんは右手を差し出してきたので、俺も右手を出して彼女の手を握った。


「こちらこそ、よろしくお願いします」


 いやいや、初めの奴等を見た時は、近衛師団って選民思想の凝り固まった奴の集団かと思ったが、この副団長はまともなようで安心した。まあ、彼女と握手した時、その後ろから殺気が飛んできたり、何やら人族の分際で副団長に触るなとか聞こえたが、そこは気にしない。


 さて、副団長というのはどのくらい強いのだろうか。



 名前:サリュート

 性別:女

 種族:青龍(ランクA)

 HP 13000

 MP 5500

 ATK 11000

 VIT 9000

 AGI 19000

 INT 12000

 MND 9500

 DEX 16500

 LUK 4200

 特殊能力:天地を翔る者、竜王の加護、咆哮、竜気術(上級)、ブレス(水、風、氷)(上級)、槍術(極)、体術(上級)、魔術(水、風、氷)、見切り(上級)、威圧、心眼


 天地を翔る者:空中でも地面と同様に動くことが出来る。


 竜気術:竜気を身に纏い戦うことを目的に編み出された武術。普通なら触れられないものも触れることが出来る。闘気術の竜族版。


 ……竜気って何だろうか。


 竜気:竜族が持つ生体エネルギー。これを扱えると、通常以上の能力を発揮することが出来るようになる。


 あー、能力がおかしなことになってるな。まあ、俺が言うのもあれだが、平均一万越えの能力を普通に持ってるって完全にチートだろ。副団長でこれだと団長や竜王は一体どれだけ強いのか想像できないが、楽勝ではないことは確かだろう。ちなみに、ざっと他の精鋭の能力を見たが、大体が平均五千程度であった。


「では、そろそろ始めてもいいかな?」


 いつの間にか俺から離れ、間合いを取っていたサリュートさんが声を掛けてきた。俺はステータスを見るのをやめ、返答した。


「はい、大丈夫です。じゃあ、始めましょうか。というわけで、よろしく」


 俺は飛竜の方を見て、試合の開始を促した。彼はそれを聞き、一度咳払いをし、試合の開始を告げた。


「それでは、副団長サリュート様率いる近衛師団精鋭軍とショウ様の試合を始めます。……それでは、始め!」


「なっ!?」


「ショウさん!?」


 掛け声と同時に、俺は後ろの壁まで吹き飛ばされていた。一瞬の事で理解するのに少しかかった。開始と同時にサリュートさんが槍で俺を一突き、ただそれだけだ。まあ、普通なら刺されて終わりなんだろうが、この壊れ性能の防具とステータスで完全無傷である。ただ、衝撃までは緩和出来ずに壁まで飛ばされたというわけだ。いやいや、ステータスを使いこなしてるっていうのはこういう人のことを言うのかね。

 

 取りあえず俺は起き上がり、何事もなかったかのように転移で元の位置に戻る。


「っ!? ほう、あれを受けて無傷とは、その服はただの服ではないようですね? それとも貴方が異常なのか?」


「普通なら死んでますよ? まあいいですが。では、此方から行きますよ?」


 そう言って俺は、前の試合同様、パラライズと威圧を使った。が、思ったよりも効果が薄いようだ。少し苦しんでいるのがチラホラ見受けられるが、そこまで行動に支障はなさそうだ。サリュートさんに至っては、どこ吹く風といった様子で全く問題なさそうだ。


「何かしましたか?」


 にっこりと此方に笑いかけてきて、まだまだ余裕そうなサリュートさん。ならば、次のステップに移るとしよう。


 呪法アフィラキシスとディスアビリティの二つを使い、その後再びパラライズと威圧を行った。すると、木端騎士達は次々気絶していった。しかし、さすがと言うべきか、サリュートさんは少し冷や汗が出ているが、笑顔を崩さず此方を睨みつけてきている。


「一体、何をしたんですか?」


「んー、まあ、効かぬなら、効く体にしよう、ホトトギスみたいな?」


 アフィラキシスは相手の抵抗力を低下させ、あらゆる攻撃が効きやすくなる。これにより、効き目の薄い魔法も効果絶大になる。またディスアビリティは相手のステータスを低下させる。それにより、俺との格差が出来、威圧の効果が増えるのではないかと考えた。また他にも、特殊能力を低下させることが出来る。そうなれば、相手の行動をかなり制限できると踏んだわけだ。


 で、結果はご覧のとおりである。


「何を言っているのか正直理解できませんが、貴方が本気でないことは分かりました。……、ここまで虚仮にされては仕方ないですね」


 ん? 何やらサリュートさんの雰囲気が変わった。しかも彼女の周りに何やら青い靄のような物が見える。それは幻想的で、思わず見入ってしまっていた。


「それは?」


 俺は呆然とそんなことを呟いていた。


「これは竜気です。本来であれば、試合でここまでする必要はないのですが、貴方は特別ですので」


「そっすか」


 こんな綺麗な人に貴方は特別なんて言われたら、惚れてまうやろー! と言いたいが、そんなふざけたことをやってる場合ではなさそうだ。はっきり言ってやばそうな気配がしており、俺の直感のようなものがガンガン警鐘を鳴らしている。


「行きます!」


 瞬間、彼女は俺の目の前にいた。集中していなければ、また初撃のようになっていただろう。いや、もっと酷いことになっていただろう。

 しかし、同じ手は喰らわない。

 避けようとしたところ、彼女は目の前から消えていた。

 しかし、彼女が後ろに移動したことは察知出来ていた。

 振り向きざまに、彼女の突きを紙一重で躱し、槍を掴み、軽く捻って彼女を地面に叩きつけた。

 一瞬、彼女の手が緩んだところで槍を奪い、首筋に刃を添える。


「これで、終わりかな?」


「……、そうですね。参りました」


 彼女は悔しそうな顔をして諦めの色を浮かべていた。斯くして、副団長戦は幕を閉じたのであった。めでたしめでたし。


















「漸く俺の出番か!!」


 やっと一息つけると思った矢先に、一人の男が扉を勢いよく開けて現れた。


……、何か疲れる予感しかしない。

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