第23話 近衛騎士と試合することになりました

 窓から朝日が差し込み、俺は目が覚めた。ぼんやりした頭で、目を擦りながらベットから起き、窓の外を眺めた。


「はー、ここは地球じゃないんだよなぁ」


 窓から見える景色は見慣れたものとは違っていた。そういった意味では確かに異世界なのだが、そこから見える人や町並みは地球の物と何ら変わらない気がする。……ほとんど海外など行ったことは無いが。


 俺は生活魔法で身支度を整えた。生活魔法を使うと、顔を洗ったり、髪を梳かしたりなんかが一瞬でできる。これだけ見ると魔法は万能の物だと思ってしまうかもしれないが、実際にはそこまでではない。確かに顔の余分な皮脂や目やに等は無くなるし、髪も寝ぐせが直ったりするが、実際に顔を洗っているのではないので若干変な感じがするし、髪も寝ぐせが直るだけで、セットとかする人は別にする必要がある。まあ、特に気にしない人としてはいいんだが。


 さて、支度を終えて朝食を取りに行こうとすると、部屋の扉がノックされた。


「ショウさん、起きてますか?」


 どうやらお下げ髪が来たようだ。


「ああ、今から朝食に行くところ」


「そうなんですか、ちょうどよかった! 一緒に朝食を食べませんか?」


「別に構わないけど」


 特に断る理由もなかったため、彼女の提案を呑み、一緒に食堂へと向かった。




------




 俺達は食堂のカウンターで食事を受け取った。食堂にはパラパラと他の宿泊客がおり、俺達は隅の方の空いている席に座った。


「しかし、竜王ってどんなんだろう」


「噂では、その姿は見る者全てを魅了するほど美しく、しかし、その声は聞くもの全てを恐慌状態にし、一度戦闘になれば大陸一つを消滅させると言われていますね」


「はあ、何だかとんでもないな」


 噂なんて尾ひれが付いて伝わるものだから、本当であるとは考えにくいが、神格者であるならば否定はできない。俺には大陸一つを消滅させるのは無理だが、格上の神格者なら恐らく出来るだろう。であるならば、敵とみなされないように注意すべきだ。そんな風に考えていると、ふと後ろから声を掛けられた。


「竜王様は基本的にはお優しい方なので大丈夫ですよ」


 聞き覚えのある声に振り返ってみると、そこには飛竜が立っていた。


「で、どうだった」


 俺がいつ竜王に会えるのか尋ねると、少し微妙な顔をして飛竜が答えた。


「それなんですが、今すぐにでも大丈夫みたいですが……」


「随分急だな。まあ、早い分には良いが何か問題でもあるのか?」


「それはですね……、竜王様に会うにはそこまでに近衛師団と戦って頂かなくてはならないのです」


「近衛師団と戦う?」


 普通に王様と会うのに何故そこを守る騎士達と戦わなくてはいけないのか。もしかして、城に攻めて行けということなのか、と考え込んでいると、飛竜は慌てて続きを話し始めた。


「ああ! 別に変な意味では無くてですね、竜王様に会いに来た者にはそうして頂くのが慣例となっているんです」


「じゃあ、何で微妙な顔をしてたんだ?」


「普通は何処からかの使者とかだったら、複数で挑んでいただくのですが、今回はあなた方二人だけでしょう? 本来なら挑戦するお二人を気に掛けるところですが、今回は事情が違います。たった二人、それも人族が挑んだとあってはプライドの高い近衛師団が何やら騒ぎそうで……」


「ほう、俺が負けると?」


「いやいやいやいや! 滅相もありません! ただ、近衛師団の振る舞いが貴方様の機嫌を損ねてしまうのではないかと……」


「まあ、そん時はそん時だろう? で、戦うってのはどういう手順でやるんだ? 騎士全員とバトルロワイヤルか?」


「はあ、それも致し方なしですか。それで形式ですが、まず若手十名、その次に副団長率いる精鋭十名、そして団長と一騎打ちの三戦連戦で、武器や魔法の使用は可能です。結界の効果で、この町の中では致命傷の攻撃を受けても死ぬことは無いので、安心して下さい」


「ふーん、ま、いっか。取りあえず今から向かえばいいのか?」


「そんな! ショウさん、あっさり決めていいんですか! 相手は最強種と言っても過言ではない竜族ですよ! いくらショウさんが規格外だからと言っても、十人を相手取ることなんてできませんよ!」


「あ、いたんだ?」


「いましたよ!? ただ、あまりにも急展開すぎてついていけなかっただけです! というか、本当に大丈夫ですか?」


「まあ、なんとかなるだろ。それじゃあ行きますか。飛竜、案内よろしく」


「畏まりました」


「ちょっと、ショウさん! 待って下さい!」


 俺はこの話はここまでと席を立ち、飛竜に付いて行った。その後ろからお下げ髪が何やら叫びながら付いて来た。




――――――




 さて、竜王の住まうこの宮殿は竜宮城というらしい。なら乙姫様でもいるのかって軽口を言ったら、よくご存じですねと飛竜に返された。なんでも、竜王の后様の名前がオトヒメという名前らしい。ちなみに竜王の名前はラグナ=ケー=ドラグニアというようだ。うーん、何というか、世界が滅びそうな名前だな。まあ、それはともかく、さっきから視線が痛い。


「おい! 聞いているのか、小僧!」


 何か髭を生やした筋骨隆々の男が喚いていた。その他にも何人か居て、全員同じ赤い鎧を身に纏っていた。その数は十名、恐らくこれから戦う相手なのだろう。


「あー、何でしょう?」


「人がせっかく親切に言ってやってんのに無視してんじゃねえ!」


「ああ、ガキやら人族の分際でとか言ってる時点で、親切心なんて微塵も感じなかったものですから」


「テメェ、ふざけてると怪我だけじゃ済まさないぜ! おい、ストライダー! こいつが例の客だってんなら、もう殺っちまってもいいだろう?」


「はあ、まあこうなることは予想してましたがね……。いいでしょう、立ち合いはこのストライダーが努めます。両者準備はいいですか?」


「ああ、さっさと始めてくれ」


「んー、まあいつでも」


「それでは試合はじめ!」


 その言葉と共に赤い鎧を着た騎士達が一気にこちらに向かって、来なかった。彼らは初めに居た位置から動くことが出来ずにいて、苦悶様の表情をしていた。


「ぐっ、何しやがった」


「どうやら、成功したみたいだな」


 俺は開始の合図と共に新しく覚えた呪法を試すことにしたのだ。使った魔法はパラライズで、どうやら呪法は初級から一定範囲に使えるらしい。で、その結果として今の状況があるのだが、スタンよりも効果は低いようだ。まあ竜族が相手だから、耐性が高いだけかもしれないが。


「さて、降参するかい?」


「ふん、小癪な! こんな小細工で我らにあった気でいるのか? こんなものすぐにでも解除してくれるわ!」


 そう言って何やら唱え始めた。まあ待ってやる義理は無いが、このままでは呆気ないので待つことにした。


……、どうやら魔法を完成させたようだ。


「全ての戒めを解き放て、アンバインド!」


 すると、騎士達がぼんやりと光り、若干表情が楽そうになったが、未だに動く気配はない。どうやら、麻痺の症状を改善しただけで完全には治せなかったのだろう。


「くっ、忌々しい。何故動けん!」


「はあ、それで終わり? 正直期待はずれなんだけど。それで飛竜、これは相手を気絶でもさせないと勝利とみなされないの?」


「はい。相手が負けを認めない以上、そうなりますね」


「分かった」


「ショウさん、やりすぎないで下さいよ」


「はいはい」


 というわけで、実験その二、スタンはどれくらい効くのかを調べることにした。十人のうち五人に掛けたところで、ゴツイ人から降参の声がかかった。どうやら一人、また一人と勝手に気絶していくのが恐ろしくなったのだろう。何故勝手に倒れているように見えたかは、無詠唱で魔法を使っていたからだ。傍から見れば俺はただ立ってボーっとしているだけだ。今回の実験では、どんな種族でも自分の理解を超えたものには恐怖を抱く物らしいということも分かったので、収穫としては上々だろう。人族も竜族も根本は同じなのだ。


 試合を終え、救護班が気絶した騎士達を運ばれていき、その他の騎士達も外傷はないが年のため検査をするため部屋を出ていった。ゴツイ男は最後まで此方を睨んできていたが、そんなものは無視した。さて、次は副団長率いる精鋭か。どのくらい強いのだろうか。

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