第25話 帰還方法が分かりました

 扉から現れたのは、赤い大男だった。燃える様な朱色の髪に深紅の瞳、そして桧皮色の肌をしていた。


 そんな彼は此方にゆっくりと歩いてきた。


「おう! これから最後の試合をやるぞ! といっても、がっつり戦う訳じゃないがな!!」


「はぁ」


 いきなり現れて何言ってるんだこいつと思ったが、恐らくこの人が団長なんだろう。そんな事を考えていると、彼の足元に直径一メートル程の白い円が描かれていた。


「それは?」


 一体、次は何をやるのかは大体予想はついたが、一応聞いてみた。すると後ろにいたセリュートさんが説明してくれた。


「相変わらず、どうして待っていられないんですか団長は……。まあ、いいです。で、ですね、ショウさん。次はあの団長と戦って頂く訳ですが、あの人は戦いになると本気になって、相手を再起不能にしてしまう事があるんです。なので、団長戦では団長をあの円の外に出せればショウさんの勝利となります。また、団長は円の内部でのみ防御や反撃をしますので、あしからず」


「よし! 準備はいいか!」


 サリュートさんの説明も程々に、赤い男はこっちを急かしてくる。


 とりあえず、ステータスでも見てみますか。



 グライアス

 性別:男

 種族:赤龍(ランクA)

 HP 28000

 MP 4500

 ATK 23000

 VIT 21000

 AGI 11000

 INT 7500

 MND 18000

 DEX 8000

 LUK 5500

 特殊能力:気焔万丈、竜王の加護、竜気術(極)、ブレス(火、風、光)(極)、体術(極)、魔術(火、風、光)、見切り(極)、威圧(極)、咆哮、心眼、徒手空拳、野生の勘


 気焔万丈:やる気に応じて能力が上昇する。最大十倍まで上昇する。


 徒手空拳:武器を装備していない時、全能力が二倍になる。



 サリュートさんも凄かったが、この人も大概だな。しかも、特殊能力が殆ど極だし。というか、サリュートさんにもあったが極って何だ。上級までしか無いんじゃないのか。


 極:その能力を極めし者に与えられる。


 まあ、予想通りだが、手抜きの説明だな。しかし、この人を普通の手段で円の外に出すのは苦労しそうだ。


「どうした!? まだか!」


 うーん、煩い。まあ、恐らく大丈夫だし、さっさと終わらせるか。


「じゃあ、いきますよ。あ、手段は何でもいいんですよね?」


「おう! 剣でも魔法でも、何なら拳でもいいぞ! 手段は問わねぇ! よし、来い!  は?」


 俺のやる気の無い掛け声の直後、赤龍は俺の横に現れた。当然彼は何が起こったか分からないようで、フリーズしている。


 辺りを見回すと、騎士団の面々は口を開け呆然としていて、サリュートさんはその手があったかと何やら納得した表情を浮かべていた。ちなみに飛竜は何故か自慢気な、お下げ髪は呆れた表情を浮かべていた。


 そうしているうちに赤龍は立ち直ったようで、再び騒ぎ始めた。


「今のは転移魔法か!? こんなの認めんぞ! やり直しだ!」


 不完全燃焼な彼は俺に試合のやり直しを求めたが、聞く気は更々無い。ルールを詰めなかったお前が悪い。


「はぁ、手段は問わないって言ったじゃないですか? ですよね、サリュートさん?」


 赤龍を説得するのは面倒だったので、サリュートさんに丸投げした。


「ええ、この試合はショウさんの勝利です。団長、素直に諦めてください」


「でもよぉ、あんなの試合じゃないだろ? やっぱり、こう拳と拳で……」


「往生際が悪いですよ、ルールで転移魔法禁止なんて無いんですから。それに私だってルールを守ったんですから、団長だけ特別というわけにはいきません」


 セリュートさんに宥められた赤龍はチッと舌打ちをして、此方に話しかけてきた。


「あー、これで竜王様に謁見する権利を得たわけだが、今すぐ会うか?」


「はい」


「チッ」


 まあまあ疲れていたが、話を聞くだけなので今日会うことにした。何故か赤龍が舌打ちをしていたが、その理由をサリュートさんに聞いたところ、日を改めた場合もう一度最初からやり直しらしく、それで再戦しようとしたらしい。


 取り敢えず面倒事が終わり、ホッと肩を撫で下ろし、竜王の間へ向かった。




――――――




 今、俺の目の前には玉座と思われる椅子に座った一人の男がいた。パッと見は茶髪で顔の所々に切り傷があり、ヤクザの首領っぽい印象を受けた。その脇には赤龍とサリュートさんが控えている。


 実際に話してみると、やはり印象と変わらず、威圧感が半端なかった。


「それでショウよ。お前がここに来た理由はなんだ」


 竜王の威圧感に少し足がすくんでいるが、なんとか気を保って答えた。

 

「私は異世界からこの世界に迷い混んでしまいました。なので帰る為に時空神殿について伺いたいのですが……」


「ふむ、また時空神殿か」


「また?」


「そうだ。お前以外にもそれを聞きに来た奴等がいてな。お前が3人目だ」


 他にも転移者がいるのは知っていたが、俺よりも先にここに来た人がいたのが以外だった。いや、全員が俺みたいなチートなら分かるが、恐らく違うような気がしていたからだ。まあ、そう思いたかっただけかも知れないが……。


 ともかく、他の転移者の足取りも2人だけではあるが、これで分かるわけだ。


「そうなんですか。それで時空神殿について教えて頂けますか?」


「教えるのは構わないが、今のままでは元の世界には帰れんぞ」


「え! 何でですか!?」


「まあ、待て。順を追って説明してやる」


 俺ははやる気持ちを抑え、話を聞くことにした。


「まず、元の世界への帰還方法だが、時空神殿の他に、一級神になることがあるのは知ってるな」


「はい」


「まあ、後者は今は置いておく。では、帰還に一級神になる必要があるのに、時空神殿では何も必要無いと思うか?」


 竜王の問い掛けに俺はハッとなった。確かに言われてみればそうである。では、その必要なものとやらを集めればいいわけだ。


「それで、その必要なものとは?」


「それは、第六級神相当以上の神格だ。正確には第六級神相当の神格と神格を得てから今までの全ての記憶だ」


 つまり、神格が不足していて今のままでは無理なわけか。まあ、記憶の方はこの世界で過ごした記憶が消えるだけなら、まあいいか。

ん? というか何で神格が足らないって分かったんだ。


「ん? 気づいたか。俺はお前よりも格が上だ。まあ、試しに俺のステータスを見ても構わんが?」


 不敵な笑みを浮かべそう言われた俺は、ステータスを見ようとしたら、権限がありません、という表示が出た。


「これは?」


「まあ、格上のステータスは見れないのは知っているだろう?一応言っておくと、俺の神格は三級神相当だ」


 マジですか。どうやら飛龍の話通り、竜王は神格者らしい。それも三級神相当という異常者だ。戦ったらどうやったって勝ち目は無いだろう。


「まあ、それはいい。神格の上げ方だが、俺の経験から言うといくつか方法がある。一つは神力をより使える様にすることだ。神力で出来ることに応じて、神格は上がるみたいだからな。初歩としては相手のステータスを見ること、魔法やその他の特殊能力に付加したりする事だな。他は災害級のモンスターを殺す事だ。数は不明だが、それぞれの級で必要数は変わってくるだろう。他にもいつの間にか神格が上がっていたことがあるから、他にもあるだろうが、その辺りはよく分かっていない」


 ふむ、ひたすらモンスターを狩っていって、その合間に神力で出来ることを探っていけばいいわけだ。と言えば簡単だが、神力なんてよくわからずに使っているからどうしょうもない。


「あとは時空神殿への行き方だが、あそこは神格者しか入ることのできない結界がある。その結界は、時空神殿のある島の一キロメートル先まで展開されているから、もし行くのであれば、東方大陸へ行き飛空艇を作るんだな。海路でも行けないこともないが、あの辺りの海は海流が異常で、ベテランの航海士でも遭難するようだがな」


「なるほど。では次は、東方大陸を目指すことにします」


 となると、空一択か。まあ、飛空艇のことは行ってから考えればいいか。それよりも神格を上げなくちゃいけない。東方大陸は魔法と科学が融合した超未来都市で、野生の魔物等は存在しておらず、家畜用が殆どであるらしい、……公式設定によると。


 それは兎も角、そんな理由で当分は神格上げをする必要がある。魔物の強さは北方大陸が一番強いから、この近辺で狩りでもしようかと考えていたところ、竜王から提案があった。


「ここまで来たお前なら良いだろう。お前が望むなら、俺が直々に神格を上げる訓練を付けてやろう」


「え? あ、はい」


「よし、では明日またここに来るがいい」


 なんだかよく分からないうちに、竜王に鍛えてもらうことになった。

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