概要
大阪大空襲の焼け跡も生々しいその場所に、一人の漫画家が立っていた。
酒井七馬。
戦前の大阪漫画界で活躍していたその男は、敗戦のショックに打ちひしがれていた日本人を見て決意する。
自分の漫画を用いて、そしていずれはディズニーにも劣らないアニメーションを作って、人々を笑顔にしてみせる。
七馬は大阪で活動を開始する。
漫画を描き、雑誌を作り、後進を育て――
そんな七馬の前にひとりの青年が登場した。
「僕の描いた漫画を読んでほしいと思って、ここまで来たんです。僕、手塚といいます」
それは日本漫画史に残る巨人、『漫画の神様』手塚治虫の若き日の姿であった。
(この物語は、史実をもとにしたフィクションです)
おすすめレビュー
新着おすすめレビュー
- ★★★ Excellent!!!戦後の焼野原に大志を抱き、奮闘の挙句、夢に敗れた男への挽歌。
非常に面白い。グイグイと引き込まれます。
でも、何が面白いのだろう?
そう自問するに、対照的な酒井七馬と手塚治虫に関する迫真の人間ドラマ。これに尽きる、と思い直しました。
人間ドラマと言っても、作品中、2人が一緒に行動する事は少しの間。考え方の違う2人は袂を別つのですが、それ以降の心理描写が最大の読み処だと思います。
大志と野心、自己正当と虚栄心。誰もが包摂する心の弱さ。
結局の所、時流に乗れた者と、見放された者。私も含め、大半の人々は後者なのですが、だからこそ作品に感情移入できて面白いのです。
また、本作品の中では勝者の手塚治虫でさえ、その後は流行に取り残されました。彼の未来を知るだけに、…続きを読む - ★★ Very Good!!駆け出し時代の手塚治虫! 面白い題材です
駆け出し時代の手塚治虫、というのはとても新鮮に感じられました。
「ブラック・ジャック制作秘話」「チェイサー」の、「時代の流れに取り残されつつある、落ち目の巨匠・手塚治虫」も面白かったですが、新人時代というのは……そういえば、手塚だっていつかは新人だったに決まっているのだ。
そして手塚の師匠・酒井七馬についても、手塚と対照的に落ちぶれていく姿が、泣かせます。
手塚治虫の才能はあまりにも圧倒的であり、たとえ酒井七馬がいなくても、きっと自力で漫画家になったに違いありません。ある意味、酒井は足かせですらあった。その残酷な事実も描かれています。
しかし……では酒井七馬の存在は無意味…続きを読む - ★★★ Excellent!!!面白いです!!(完結済み・全12話)
諸行無常、勝者と敗者。それすら移ろう世の流れ。
その中で自分の想いに生きた人々。
そういう意味で、このお話はキッチリと歴史物です。
それと同時に、すっと読み易く、キャラの想いや気持ちが入って来る感じもあるのが好いです。
今作は、戦後の漫画に関わった人々の内、漫画の神さまとも呼ばれる手塚治虫、ではなく、ある意味、勝者から敗者へと転げ落ちた酒井七馬にスポットライトが当てられています。
ですので、あくまでも主役は彼、酒井七馬です。
単純に、能力が劣ったから、ではなく、無情に過ぎる時代の流れこそが、それをもたらしています。
その流れは、昔も今も変わらず、常に流れる物です。
だからこそ…続きを読む