第21話
次の日の朝、出社をすると、課長と五反田さんが、血相を変えてわたしを呼び出した。
「どうして、このファックスを処理していないんだ。今日には到着してないといけないのに。どうするんだよ。間に合わない!」
五反田さんの罵倒に、わたしの背筋は凍りついた。
他の営業担当者は、聞き耳を立てながら、自分のパソコンとにらめっこをしている。
「今日、ですか」
「そうだよ」
「そうだよ、と言われましても、」
わたしには、これ以上言い返す気力が生まれてこなかった。
黙っているわたしに、事のいきさつを聞いたであろう、課長が声を掛けてくる。
「昨日は五反田さんだって忙しかったんだよ。どうして確認してあげないんだよ。緊急オーダーなのに、来週っておかしいだろ?」
「わたしだって、おかしいと思いましたよ」
「でも、保留にしたまま、帰ったんだろう? 夕方までに何かしら対応をすれば、余裕で今日の納入は間に合う。五反田さんは昨日のうちに、お客さんに連絡を取って、明日には届くと伝えてしまっているんだ」
そんなこと、わたしは知らない。そんな連絡を受けていない。
一番悪いのは五反田さんではないのか。それに、どうしてこの課長は、ベテラン社員の肩を担ぐのか。
「もういいです」
「いいですじゃないよ。いまから届ける方法を考えるんだよ。鈴木さんが来たら、最優先で対応してくれ」そう言い終わると、課長は自分の席に戻っていった。
五反田さんは、怒りをあらわにしながら、席についた。他の担当者は、何も言わずに黙ったままだ。
しばらくして、鈴木さんが出社した。課長に呼び出された後、鈴木さんはわたしのところにやってきた。
「大した個数じゃないから、僕が届けるから、レンタカーを手配してもらっていい? あと、僕が倉庫に入る緊急手続きもね。やり方、わかるよね?」
「鈴木さんがトラックを運転して、届けるんですか?」
「それが最短だよ」
「わたしも行きます」
「そしたら、電話番がいなくなっちゃうよ」
そう言うと鈴木さんは、目覚め切っていない身体を伸ばしながら煙草を吸いにオフィスから出ていった。
わたしは、思わずその姿を見つめていた。
そして、パソコンを急いで立ち上げる。
夕方になると、鈴木さんは帰ってきた。
わたしがありがとうございましたと言うと、珍しく鈴木さんは言葉を返してきた。
「いきさつ、聞いたよ」
わたしは周りを確認してから、小さな声で「ひどいと思いませんか」と訴えた。
鈴木さんは、間をあけた。
「まあ、どっちもどっちかな」
「どうしてですか」
「納得いかないなら、ちゃんと課長に説明しないとダメだよ。五反田さんが間違っていると自信を持って言えるなら、ちゃんと言葉にして言う。それができるようにならないと、来年度からも困るよ」
鈴木さんは、そう言って、机の上を片付けて、お疲れ様でしたと帰っていった。
わたしは、急いでパソコンを片付ける。
涙が流れそうになるのを必至にこらえながら。
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