第13話

 熱い夏は一瞬で過ぎ去り、秋風が吹く頃、入社して半年経ったわたしは一人でできることが多くなってきた。ただ、営業事務とは関係のない、若手だから押しつけられる仕事が多く、土日が仕事関連のイベントで潰されることも多かった。

 この「やきいも祭り」も、その一つだろう。

 わたしは、いま、やきいも祭りの運営者にさせられそうになっている。しかも、鈴木さんと一緒にだ。

「今年も、取引先の主催するやきいも祭りがあるんだけどね、毎年みんなにはお客さんとして参加して貰っているけど、今年はどうしても運営する人手が不足しているらしいんだ。だから、うちからは君と鈴木さんに協力して貰おうと思っている。きっと、若い子が来たら向こうも喜ぶと思うんだよね。鈴木くんも、たまには協力してくれ」と、課長は言った。

 横には、ベテラン社員の五反田さんがいる。どうやら、五反田さんの要望のようだった。

「やきいも祭りに強制参加しないと、良好な関係が築くことができない取引先ならば、それはちょっと違うんじゃないんですかね」

 と、鈴木さんは言った。明らかに、納得がいっていない様子だった。その台詞に五反田さんの血が上っている。

「そんな考え方……、だから鈴木さんはダメなんだよ! 人間関係の大切さがわかっていない。建前で行くとかではないんだ。行きたいからいくんだ。あそこのサツマイモは本当においしいんだ。だから、私たちとしても、あのサツマイモがもっと世の中に広まってほしい。その手伝いをしたいから、いくんだよ」

「そこまでの思い入れは、あのサツマイモにはないんですが」

 話し合いは、平行線をたどりそうだった。

「とにかく、二人必要なんだ。後はみんなで決めてくれ」

 そう言うと、課長と五反田さんは会議室から出て行った。

 月曜日の午前中は、毎週この課内会議が行われている。営業担当者だけでなく、わたしたち営業事務も同席する。そして、しょっちゅう行われる取引先のイベントに駆り出されることが決定する。

 結局、この話は平行線をたどったまま、打ち切られた。二人でやれ、ということなのだろう。

 プロジェクターを片付けながら、わたしは鈴木さんを見た。納得がいかない様子だった。

「なんか、面倒なことになっちゃいましたね」

「君は本当に断らないね」と不満そうに言った。

 カチンときた。確かに面倒だが、それは仕方がないのではないか。

 わたしは確かに毎回駆り出されているが、取引先に顔を知ってもらう意味もあるため、無駄だとは思っていない。実際にお会いした人からは、ちょっとのミスは許してもらえるようになる。人間関係は大切だ。課長の言うことも理解はできた。

 それに、他の営業担当者も、持ち回りでイベントに参加しているのだ。むしろ、毎回参加していないのは、鈴木さんだけだ。

「そんなに、土日忙しいんですか?」

「ああ、忙しいさ」と鈴木さんは、ぶっきらぼうに言った。

「何をしているんですか?」

「なんでも、構わないでしょ」

 そう言うと、鈴木さんは会議室から出て行った。いつもは最後まで手伝ってくれるのに。わたしは仕方がなく、一人で会議室の机を元に戻す。

 土日も、ヒロコさんをあの場所で待っているのだろうか。

 わたしは思わず首を二回振っていた。

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