第3話

『十人の王に百人の騎士よ、貴方方は選ばれました』


 また、あの声だ。やけに大きく頭の中で反響する。

 声だけじゃない。どこか遥か遠くから眺めているかのように目の端に小さく古びた石の塔が見える。苔むし、植物の蔦や根が絡まっており、人の手が長らく入っていないのは明らかだ。だが、すでに廃墟となった塔から不思議と目が離せない。


『火と水、土と金、風と雷、光と闇。


 太古より連綿と続く、闘争の歴史。』


 風景が移りゆき、塔の中へ。

 塔の最上階には、祭壇と思われる長方形の台の上には少女が一人。

 頭から白いローブを被り、顔は見れない。だが、彼女から広がる不思議な波動が、この透き通る声が彼女のものだと教える。

 声に反応し、床一面に描かれた魔法陣が光り輝く。見慣れない文字に、模様、それらが色とりどりの光を発し、彼女を包み込む。

 

『貴方方は神々の駒として、願わくば神を打ち倒す者として、贄と等しい存在となる』


 まるで歌うように、詠い、光が踊る。

 今までの夢と同じように一言一句違わぬ文言。次ぐ言葉も分かってしまう。


「ただ今は雌伏して時を待つのです。

 そして、見事到神の暁には、私はこの命を捧げましょう」、だったか。


 だが、今日のは少し違った。


『ただ今は我が身を贄に救世主を呼び奉らん。

 そして、世界に平和あれ』


 気づくと、森の中で俺は空を見上げていた。




 ◆ ◆ ◆




 見慣れたメニューバーが視界の隅に薄く表示されている。どうやら、ゲームの夢でも見ているらしい。それにしては現実味を帯び過ぎているが。

 これが現実だとしたらたまったもんじゃない。初期ステータスに戻ってしまっているのだから。

 だが、夢だと思えばこれはこれで面白い。

 俺たち救世主イレイザーは騎士か、王、どちらを選ぼうとゲーム開始前に選ぶ項目は同じだ。名前、種族、外見、得意武器、そして、得意属性を一つ。この中で最も重要なのが、属性と言ってもいい。任意で選べる属性一つと名前、決められた中から選んだ家名により、確定する属性。もちろん、攻略サイトを見れば、好きな属性を二つ選べるのだが、ハヤトという名に合う家名を選び、結果として雷と光の属性を持つことができた。

 そして、この世界に落とされてから最初にするのが、ステータスやスキルへのポイントの振り分けだ。ステータスは生命、力、頑強、魔力、素早さの5つの項目からなり、スキルは武技、魔技、心技の3つからなる。

 俺は雷と光の属性を得た時、勇者という単語が頭に浮かんだため、それらしく満遍なくポイントを振り分けていったものだ。

 ステータスの各項目に均一に振り分ける。だが、もう一度出来るならやってみたいことがあったのだ。


「ん? 振り分けるポイントがない? ま、夢だからな」


 楽しみが一つ無くなってしまったが、ポイントがない分、すでに振り分けられていた。おそらく、前の俺と同じように満遍なく。

 Level.1の状態では出来ることも限られる。レベル上げに勤しみますか。

 立ち上がり腰の剣と背負った盾を見てため息をつき、それと同時に懐かしさがこみ上げる。

 この初期装備である剣と盾は生成武器と言える。これは救世主イレイザーの成長に伴い、武器も強化されていくのだ。その上がり幅は小さく、買ったり、作った方が簡単に強い武器が手に入るのだが、鍛え上げれば伝説級の代物と化し、それに加えて折れることもなく、斬れなくなることもない一級品へと変貌する。

 もっとも、途轍もない時間と労力を要するため、これ一本でプレイしている奴はなかなかお目にかかれない。俺を含めて片手で数えられる程度しかいないはずだ。

 そして、これを知っているからこそ夢であってもまたこれ一本でやってやろうと思う。


「さてと、まずはレベル上げだな。手頃な奴はいないものかなっと」


 森の中ということで危険な場所は大体把握している。森でというよりも、どこでも同じように気をつけるべきなのは奥地に入らないことだ。森で言えば、日の当たる場所の方が危険性が少ない。逆に木々が鬱蒼と茂っているような場所はどこからでも魔物が現れる可能性があり、そこに生息する魔物は一癖も二癖もある。

 歩くこと数十分、じわりと滲み出た汗と身体がほど良く暖まったのを感じながら、息をひそめる。俺の腰ほどの丈の草むらの先には鼻先と両耳の辺りに計三本の角を生やしたサイ、マクロプスが草を食べている。

 このマクロプスは背丈は小さいものの、その三本角から繰り出される突進にはかなりの破壊力をもっている。だが、気性は穏やかであり、仮に失敗したとしても逃げる分にはそれほど追ってこないため、リスクの少ない狩りができる。


 風下からゆっくりとかがみながら進み、距離を詰める。そろりと抜いた剣には額に汗を浮かべた俺が映っていた。

 俺がLevel.1であるのに対して、マクロプスは10〜15の強さを誇る。経験があるとは言え、緊張が顔に表れていた。

 残り数メートルというところで、立ち上がり走る。

 頭の中で靴に風を纏わせ、疾走するイメージをして、第一位階心技【風の靴】を発動する。

 イメージ通りに加速し、瞬く間に接敵。剣を振り下ろす。ただ振り下ろしただけではこのステータスではろくにダメージを与えることは出来ない。

 第一位階武技【強撃】を使用した。

 最低値の攻撃力の剣とステータスでの攻撃ではいくら不意をついたといっても、マクロプスを僅かに仰け反らせるのが精一杯。

 だが、それこそが狙い。


 ーーキュアアァッ!


 甲高い悲鳴を上げて仲間に異変を知らせている。それを待っていた!


「もらったぁぁっ!」


 開いた口を目掛けて、剣を突き入れた。

 くぐもった声を上げ、ガクガクと震えて必死に逃げようとする。しかし、こちらも力をさらに込めて深くまで刺しこむ。

 剣を口に入れられたまま動き続けること数分。やがて動かなくなり、倒れ伏した。

 近くで食事をしていたマクロプス達はすでに逃げ去っていた。

 本来であれば、解体を行い、素材の剝ぎ取りを行いたいが血の臭いにつられて、さらに強い魔物が現れたら対処できない。

 すぐにその場から離れることとした。


ハヤト=フリードハイム 祖人族 Level.4 up!

生命:66 up! 力:66 up! 頑強:66 up! 魔力:66 up! 素早さ:66 up!

武技【強撃】【刺突】new! 心技【風の靴】【鷹の眼】new!【兵の腕】 new! 魔技


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俺はお前の騎士になる こう茶 @yual

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