4 凶刃再び
ルデン――リュウグウ列島に一番近い街として知られる、グース大陸東端の港である。
百年ほど前まで平凡な漁村だったのだが、ユートム教団の世界的な躍進に合わせて街が急激に発展。聖都クオンツァへの巡礼を望む者たちが落とす金で、街は大層潤っている。
しかしそんな発展の反動で暗部も根深い。一言で語れば、光と影の差が激しい街だ。
そのルデンの街外れを、慈乃は一人で歩き回っていた。最近この辺りで無数の剣を突き立てられた異様な死体が何度も見つかったと聞いて、「もしや」と思ったのだ。
「…………」
素早く杖を背後に回す。濃密な殺気と確かな手応え。身を一旋させて攻撃を受け流して振り向いた先に、剣を手にしたザンの軽薄な笑みがあった。
「よう、御嬢。不意を衝いたつもりだったんだがなぁ」
「どういう挨拶ですか。少し目を離している間に、ずいぶんと人を殺したそうですね」
「いいだろ、どうせ生き返るんだし。ここで待ってりゃ必ず来ると思ってたしな」
悠々と言い放つ。相手は殺戮を好む凶漢だというのに、心が少し軽くなるのを感じた。
「あなたは……私が立ち直ると信じてくれていたのですね」
「ンなことどうでもいいから、例の空飛ぶ術でピューッと運んでくれ。オレ、船って苦手なんだよ。いつも我慢できずに船員を皆殺しにしちまうんだよな」
「……前言撤回します。あなたのような罪人に少しでも心動かされた私が愚かでした」
悪寒を覚えて顔を手で覆う。まったくこの少年は、人の命をなんだと思っているのか?
それでも、見知った顔が近くにあるということは、どこかほっとするものではあった。
この街からはリュウグウ列島へ向かう船も出ている。一気に渡り切れそうなら、ザンの言うように気流に乗っていくのもいい。いずれにしてもクオンツァはもう目と鼻の先だ。
「では参りましょう。もう一度、ライゴウ様に会いに!」
かつてアルメルティの地下牢でもそうしたように、慈乃はザンに手を差し伸べた。
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