第三話

 鳥に限らず他の動物でも、

「成長するにつれて、狭い自宅の中では飼いきれなくなった」

 という相談は多かった。

 最近は飼い主の嗜好が多様化しており、ペットの種類も多彩になっている。

 他の人が飼っていないものを飼いたいという傾向もあるようで、余計に面倒が見切れなくなる危険性が高まっているとも言える。

 人目を避けて夜中にこっそりと森に放つ輩も後を立たないから、それに比べればわざわざ園に持ち込む心根は、決して悪くないと思いたい。

 しかしながら、所詮は、

「小さくて可愛いうちは飼っているが、大きくなって手に余るようになると放棄する」

 という、飼い主というよりは買い主の完全なエゴである。

 放棄する前に、必ず一度は動物の身になって考えてほしい、と園の飼育員としては切に訴えたい。

 急に捨てられた動物は、妻に熟年離婚を切り出された中年男性のようなものである。

 その悲哀は深い。


 また、そもそも園は動物を繁殖させて販売することを目的とした施設ではない。

 稀少動物を保護して、その生態を詳しく研究するための施設である。

 従って、一般的な愛玩動物だけが増えても困る。

 現実問題、収容する場所は限られており、飼育のための費用も限られるからだ。

 一応、捨てられてから二ヶ月間は引き取り手を探す努力をするが、それ以降については園でも面倒をみることは出来ない。

 そうなると殺処分することになる。

 その事実を察知した愛護団体から、

「どうして動物を保護すべき園が、動物を殺すのですか!?」

 という感情的な意見をぶつけられることがある。

 しかし、それを言う前に事の発端がどこにあるのか、よく考えて頂きたいと思う。

 自ら責任を取れない飼い主が、それを他者に押し付けた結果であり、仮とはいえ二ヶ月間も飼育を続けた飼育員は、かなりの自己矛盾を抱え込んでいる。

 それに、殺処分に反対するのならば、そうさせないための実現可能な手立てを、何か提案すべきではないかと思う。

「命を大事にしよう」

 というお題目だけで救える命は、ない。

 

 日々直面している問題のため、つい熱くなり過ぎた。

 ここで話を変える。


 稀少動物の研究施設という性格から、珍しい動物が園に持ち込まれることもある。

 そして、これが持ち込まれる動物の残り三割を占めていた。

 大半が、異国で捕獲された動物を密かに飼育していたマニアが、途中で世話に困って園に駆け込んでくるケースである。

 また、そのような事情から野に放たれた動物が、捕獲されて園にやってくることもある。

 色や鳴き声が珍しい小鳥など、さほど大きくならない動物の類であれば、新たな引き取り手が見つからないこともない。

 部分的な特徴が優れている動物は、コレクターズアイテムとしてプレミアすら期待できる。

 例えば、体毛が密集している部分がある、所謂『もふもふ指数(略称はMMI)』の高い動物は、昔から根強い人気がある。

 また、胸部に脂肪が凝集している、所謂『ぱふぱふ指数(略称はPPI)』が高い動物も、引き取り手が多い。

 闇で驚くほどの高額で取引されていると聞いたこともある。

 特に、これが哺乳類系統のヒューマノイドだと、マニアックな愛好家が多く、成体でも引き取り先が見つかることが多い。

 哺乳類以外の動物になると、逆に大きさが増すにつれて引き取り手が少なくなる。

 特に大型の爬虫類系統に至っては皆無に等しく、爬虫類のヒューマノイドとなると絶望的である。

 また、さすがにヒューマノイドになると引き取り手がないから殺処分、という訳にはいかなくなる。

 その辺が動物愛護の博愛精神とかけ離れているため、さらに自己矛盾の温床となるのだが、ここではその議論はしない。

 ヒューマノイドには公的資金による援助が行なわれるので、一時保護施設に入所することになる。

 私が勤務する園には、その保護施設も併設されていた。

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