7話 作戦会議は屋上の上で



◇異能戦の主なルール


・異能戦は通常、同学年各クラス単位で一対一の形式で行われる


・異能戦を行う場合、各組の委員長は前以て対戦相手に試合を申し込まなければならない


・異能戦を申し込まれた組は、基本的にこれを断わることはできない


・基本的に全員参加だが、病欠や異世界遠征等、事情がある場合のみ対象外とする


・下位組が上位組に異能戦を申し込む場合、段飛びは許されず、必ず一つ上のクラスのみしか許されない(ただし二つ上のクラスから異能戦を挑まれ、これに勝利した功績がある時のみ、段飛びを特別許可される)


・上位組が下位組に異能戦を申し込む分には、制限は設定されていない(ただしS組のみ、下位組に異能戦を申し込むことはできない)


・異能戦は先攻と後攻と分かれ、試合を申し込んだ組は自動的に後攻側となる


・異能戦は学園を模した架空フィールドによって行われ、学園内以外の場所は指定できない(ただし、範囲の指定は可)


・勝利条件は生徒間によって取り決め可能だが、必ず制限時間を設け、気絶や降参した生徒、命の危機に瀕した場合などは直ちに離脱させるものとする(特に条件がない場合、学園側に決定権が委ねられる)


・異能による戦闘を推奨しているが、体術やその他の戦法も許可する。ただし、銃器や刃物の持ち込みは不可(異能によって作り出したり、四次元などから取り出したものはその範疇ではない)


・先攻後攻共に、転移後はランダムに各所へと飛ばされるが、先攻側は十分間だけ自由時間を与えられる

 後攻側はグループを作ってからの転移も可能だが、数が多過ぎるとその分範囲が狭まるので十分考慮しておくこと


・異能戦では携帯端末の使用を認めているが、所持できるのは学園側が用意した物のみ。加えて、持ち込めるのは五つまでで、通話機能しか備わっていない


・召喚獣などの呼び出しは可だが、当事者でない者(他のクラスや上級生など)は異能戦に召喚するのは認められない


・敗北したクラスは、一ヶ月以上は異能戦に参加できない


◇異能戦における注意事項


・異能戦において負った怪我はすぐさま医療スタッフにより万全で完全な治療を約束するが、生命の保証までしないものとする


・上記による治療費用は全て学園側が負担するが、金品等の紛失また破損については対象外とする


・異能戦に教師は一切介入しないが、不正行為が判明した場合、直ちにこれを中止し、対象者には厳正な処罰を下すものとする


・架空フィールド内で看過できない問題が生じた場合、第三者が介入し、場合によっては異能戦を中止する権限が与えられる


・異能戦の趣旨にそぐわない行為(拷問等)が認められた場合、直ちに退場、状況によってはペナルティを科すものとする



◇異能戦での勝利者待遇


・異能戦に勝利した組は、敗北した組から二つだけ異能を一定期間だけコピーすることができる


・D組が敗北した時のみ、学園側が許可する範囲内でなんでも自由に命令できる権利が付与される


・特に優秀だったクラスは、来年度にクラスの総替えも検討される



◇ルールを遵守し、禍根の残らない素晴らしい試合にしましょう



 ◇◆◇◆



「ルールとしてはこんなところかな。まあ、上級生の例もあるから、だいたい知ってると思うけど」

 場所は屋上。春麗らかな陽光が射し込む中、御影と虎助――そして美々奈の三人は揃って昼食を取っていた。

 空は吸い込まれそうなほどの青々とした快晴。風はなく、暑くも寒くもない陽気がとても心地いい。外でランチをするのに絶好な日和だった。

 御影は手に持ったプリントを一旦床に置いて、購買で買ってきたハムサンドに手を伸ばした。

「なんや、前々から聞いとった話と変わらんな~」

「でも俺、D組が負けたときになんでも命令に従うルールなんて、全然知らなかったぞ」

 美々奈は持参した弁当を箸で摘みながら、虎助は御影と同じく購買で買ってきたおにぎりにかじり付いて言葉を交わした。

「多分、僕らの学年だけなのかもしれないね。現状、D組の異能をコピーしたところで、なにも使い道がないし」

 ハムサンドをついばみながら、御影はもう一度プリントへと目を向けた。

 プリントには異能戦における各要項が記載されており、虎助の言う通り、下側に半道徳的な文章がはっきり書かれていた。御影も初めに見た時は我が目を疑ったものだ。

 プリントはB組に異能戦を挑まれた日の翌朝、担任教師であるみるくから配られたものだった。

 ルール自体は以前より耳に挟んでいたものばかりだったが、先にもあったように存知ではない情報も記されている。もしかすると、今年度より追加された項目なのかもしれない。

「それにしても、よく屋上なんて使えたなミカ。普段は立ち入り禁止のはずじゃなかったけ?」

「僕はフネさんに頼んだだけなんだけどね。虎助と作戦会議を開くのにちょうど良い場所はないかって。そしたらフネさんまで付いてくる始末だし」

「別にええやん。とっておきの場所教えたったんや。ウチも参加したって文句はないやろ」

「抜け目ないなあ」

 まあ美々奈の言う通り、おかげで御影達以外にだれもいない、絶好の場所を取れたわけだが。

「ちなみに、どうやってドアの鍵を手に入れたのか聞いていい?」

「あかんあかん。企業秘密や。ウチかて危ない橋を渡ってるんやから」

 断固として拒否を示す美々奈。その言い草だと、御影と虎助も危ない橋に渡されていることになるのだが。

「そんなことより、ほんま大丈夫なん? 相手はウチらより二つの上のB組なんやで?」

「それなら問題ない」

 ジュースの入ったペットボトルを手に取り、渇いた喉を潤してから、御影はこともなげにこう言ってのけた。



「こうなるのは、ソードフェルトさんをで折り込み済みだったから」



『は…………?』

 虎助と美々奈が、呆気に取られたように口をぽかんと開けていた。

「ど、どういうことだよミカ! ソードフェルトを助けたのって、あの一ノ宮って強引な奴にムカついたからじゃないのかよ!?」

「それもあるけれど、本当の理由ではないかな」

 淡々と答えながら、御影はハムサンドをついばむ。

「そもそも僕がソードフェルトさんを助けようと思ったのは、一ノ宮くんの人となりを把握してたからなんだよ」

「把握って、前々から知ってたってことなん?」

「うん。去年の異能戦から」

 あんなヤツいたっけ? とばかりに首を傾げる二人に、

「ちゃんといたよ。B組の委員長としてね」

 と苦笑を交えて御影は言う。

 思い返してみても、今となんら変わらない、やたら高飛車な性格をしていた。B組の中でも、一番目立ってたと表しても過言ではない。どうやら虎助と美々奈はすっかり忘却していたみたいだが。



 ――まあ、あの頃はぎくしゃくしてたし、周りを見てる余裕もまったくなかったしなあ。



「じゃあアイツをやたら煽ったのも、向こうから異能戦を挑ませるためだったのか? アイツならきっと挑発に乗ると見越して」

「正解。ルールにも書いてあるけど、先攻側に立てた方が有利だしね」

 異能戦に挑まれた側は、十分間の自由行動が許される。このアドバンテージは――特に弱者ばかり固まっているD組にとって、これはかなり大きい。

 プライドの高そうな彼のことだ。大衆の前で自尊心を傷付けるような真似をすれば、絶対こちらの誘いに乗ってくると信じていた(D組の人間だと分かった途端、いきなり付け上がっていたし)。

「ん? あれ、ちょっと待ってえやミーくん。それって言い変えたら、一ノ宮くんでなかったらアインさんを助けへんかったんかもしれへんの?」

 ニッコリ。

 その質問に答えず、御影はこれ以上ないほどの満面な笑みを象った。

「うわっ。なにその爽やかな笑顔に隠された黒いもんは!」

「そんなんだから、腹黒委員長とか陰で言われんだぞミカ……」

「これも異能戦に勝利するための知恵だよ」

 どこ吹く風と言わんばかりに平然と流しつつ、御影はハムサンドを完食する。

「それに僕が助けなくても、先生達が場を収めてたよ。ほら、あの後もすぐにやって来てたでしょ?」

 あー、と納得の意を表す虎助。現場には虎助も居合わせていたし、言わんとしていることが分かったのだろう。

「でも、ほんまに良かったん? B組と異能戦なんて、勝てる見込みなんてあるん?」

「もちろん。今年は思いがけずソードフェルトさんも入ってくれたしね」

 アイン・ソードフェルト。

 異世界の迷い子ロストチャイルド

 B組相当の実力を持っている(らしい)、謎多き少女。



 ――ソードフェルトさんの異能については既に聞きだしてあるけれど、さて吉と出るか凶と出るか……。



 あれから――体育館での入学式(内容自体は極々ありきたりなものばかりだったので、特筆すべき点はない)の後、すぐにアインと二人っきりになる機会を作った時のことを反芻しつつ、御影はたまごサンドへと手をかけた。




「ごめんなさい。貴方を余計なトラブルに巻き込んでしまいました……」

 ひと気のない校舎裏だった。正面に立つ御影にアインは頭を下げて、開口一番に謝罪を述べた。

「いや、いきなり謝られても……」

 困惑気味に頬をかきつつ、御影は「それに」と続ける。

「ソードフェルトさんを出汁にして異能戦を取り決めたようなものだし、そのへんとか良かったの?」

「はい。ああでもしなければ、あの人は引いてくれなかったでしょうから」

「仮にD組が負けて、ソードフェルトさんに下衆な命令を一ノ宮くんにされたとしても?」

「……決して良くはありませんが、覚悟はしています。そうでなければ、立場を危うくしてまで庇ってくれた貴方に申しわけが立ちません」

「そこまで重く捉えてくれなくてもいいんだけれどね……」

 こちらとしても、計算の上で銀次を煽ったのだ。換言すればアインを利用したようなものだ。下手に関係をこじらせたくないので、絶対に明かしはしないが。

「でもこうなってしまった以上、ソードフェルトさんにも全面的に協力してもらう必要がある。言いたいことはなんとなく分かってもらえるよね?」

「はい……」

 重々頷くアイン。話の流れからして薄々察知してはいたのだろうが、未だ決心が付かないのか、平素の無味乾燥な表情の奥に僅かな陰りが見えた。

 こうまで微妙な反応をされると、御影としても非常にやりづらい。よほど秘密にしなければならないだけの能力なのかと、思わず身構えてしまう。

 しかし、時間は有限だ――銀次とその場で取り決めた日時ではあるが、異能戦は三日後の正午からということになっている。

 作戦を練るなり情報収集するなりの時間を考えたら、さほど余裕はない。対話次第では引き延ばすのも可能だったが、相手が油断しきっている間に攻めたい。

 とは言いつつ、アインに嫌悪感を持たれるのは好ましくない。なるべく刺激しないように、彼女の心を徐々に解きほぐす必要があった。

 そうして、しばらく互いに黙していると――



「私の異能は――『鬼』と呼ばれる肉体強化系です」



 と、アインが不意に口火を切った。

「肉体強化系……。というと、腕力や脚力が上がるタイプの?」

「その通りです」

「具体的にどの程度?」

「……そう、ですね。コンクリートの壁を破れるほどの膂力に、常人を遥かに超える脚力――といった具合でしょうか」

 何度か躊躇するように一拍置き、途切れがちにアインは説明する。

 能力自体は特別珍しいものではない。割とありふれた、凡庸な能力ではある。

 が、それにしてはやたらと神妙だ。周囲に能力バレしたとしても、さほど困るようなものでもない気がする。

 妙に拒むからどんなものかと恐々としていたら大したものでなかった――となれば笑い話で済むが、この様子だとそうではないのだろう。

 裏がある、と考えるべきだ。

 しかしあまり詮索すると、信頼関係が完全に瓦解しかねない。近々異能戦が始まるという時に、悪影響を及ぼすのは避けたいところだ。



 ――ひとまず今日はこれくらいにしておいて、異能戦をやりつつ探るしかないか。



 本来ならもっと詳細を知った上で異能戦に望みたかったが、たとえアインが戦力にならないと判明しても、勝てる算段はある。

 伊達に、今日まで年蜜な計画を立ててきたわけではない。元々アインを主軸にしていない(わずかにも不透明性がある以上、むやみには使えない)戦略を考えていたし、後はぶっつけ本場と行くしかあるまい。

「ありがとう、ソードフェルトさん。隠したがっていることを無理に問い詰めるような真似をしてごめんね」

 そう詫びを入れて。

 アインとの会話は、不確定要素を残しつつも、ひとまずお開きとなった。




 そして、話は現状――御影達三人による作戦会議に戻る。

 内一人は無理やり付いてきたようなものだが、とりあえずメンバーである美々奈は、

「アインさんかー。結局どんな異能なんやろうなあ」

 とブロッコリーをつまみながら、そうふとした調子で呟いた。

 別にここでアインの異能に触れても良かったのだが、本人はあまり周知されてほしくなさそうな印象だったし、今は心の内に秘めておこう。沈黙は金なり、である。

「いつか自分から話してくれんだろ。それよかミカ」

 早々におにぎりを平らげた虎助は、ビニールの包みを片しながら、右隣りに座る御影に声をかける。

「あの一ノ宮ってヤツと決めた勝利条件だけど、確認のためにもう一度聞かせてくれねぇか」

「いいよ。お安いご用だ」

 快く承諾書した御影は、手にしていたたまごサンドを食べきり、咀嚼しつつ嚥下した。

 B組と決めた勝利条件は、以下の通りである。



・日時は三日後の正午。制限時間は二時間


・B、D共に全員参加


・指定範囲は本校舎と第二校舎に第三校舎、並びに校庭も含めた半径三十メートルの地点まで。


・先に委員長を撃破したクラスが勝利となるが、制限時間内に勝負が決まらなかった場合、倒した生徒の総数によって決する



「――と、だいたいこんな感じかな」

 あっさり諳んじてみせた御影は、ペットボトルのフタを取って、ジュースを飲み始めた。

「それを聞いて気になったんだが、なんで最初から撃破した総数で競わなかったんだ? こっちの方が手っ取り早いだろうに」

「単純な力関係で言えば、こっちの方が圧倒的に劣っているからね。総力戦で挑むよりは、先に大将を叩くやり方の方が僕らD組には合ってるんだよ」

 総力戦となると、手当たり次第に衝突する羽目になってしまうし、異能では大幅に分があるB組にしてみれば、格好のカモだ。

 そうなるよりは、一点へと集中し、たとえ戦力が減っても逆転が狙える大将潰しの方が、D組にとってはよほど都合がいい。

「じゃあ、範囲を本校舎から第二、第三校舎までにした理由はなんだ?」

「範囲が広過ぎても、お互いの姿を見つけようとするだけでジリ貧になっちゃうからね。相手より早く先制点を上げて時間まで隠れ潜むのもアリではあるんだけど、相手も同じ勝ち逃げ作戦を取ってくるかもしれないし、お互いに効率が良いとは言えないんだよね。下手に時間と労力も割きたくないし」

 北条学園はアルファベットのHの真ん中にもう一本直線を足したような構造をしており、左から第二校舎、真ん中が本校舎、右が第三校舎となっている。他の敷地には体育管だったり宿舎だったりショッピングモールだったりと、一つの町はあるんじゃないかという広大な敷地を保有している。むやみに学園内全てを戦場にしてしまうと、人ひとり倒せずに終了してしまうお粗末な結果すら十二分にありえてしまうのだ。

「最後に、制限時間を二時間にしたのはなんでた?」

「二時間くらいの方がちょうど良かったんだよ。時間をかけ過ぎて神経を擦り減らすのも戦闘に響くだろうし。それに向こうはこっちのことを完全に侮っているだろうから、やっきになって僕を倒そうとするより、二度と逆らえないよう全滅を目指して戦力を分散させてくると思うんだよね」

「あれ? さっきB組も勝ち逃げ作戦で来るかもって言ってなかったか?」

「それはあくまでも、架空フィールドの範囲が広過ぎた場合だよ。いくら僕達を見下しているとは言っても、中には戦闘に不向きな人もいるだろうし、そういった人を先に倒されて遠くに逃げられでもしたらお終いだろうからね」

「なるほどな。二時間程度に制限したのも、極端に時間が足りないとミカ単独狙いに方針を変えるかもしれねぇ事情もあるわけか」

「そういうこと」

「んー、よう分からんなあ」

 虎助と話し込んでいる間、黙って傾聴していた美々奈が、ここにきて急に口を挟んできた。

「一ノ宮くんは、なんでその条件を呑んだん? ミーくんに言われるがままやったん?」

「まさか。一ノ宮くん自身の口から言わせるよう誘導しただけで、僕からはこれといって提案はしなかったよ」

 なんでも相手が主導権を握っていると思い込ませた方が、油断も誘えて隙を突きやすい。所詮はD組と侮っているおかげもあって、騙すのは実に容易だった。

 舌先三寸口八丁、というわけでもなかったけれど。

「はー。ミーくん言葉巧みに人を惑わすもんなあ。納得やわ」

「近い内、詐欺師とか言われそうだよなあ」

 美々奈と虎助が、褒めているのか貶しているのか分からないことを口にする。不名誉な称号ばかり増えていく様に、御影としても複雑だった。

 さておき。

「だから重要なのはここからとも言えるんだよ。無理に全員を倒す必要はない。僕らはただ、勝利条件である頭だけを潰せばいい。そこで、だ」

 やにわに御影は三本指を立て、虎助と美々奈に掲げてみせた。



「ルールにもあるけれど、ケータイを持ち込めるのは五つまで。内の二つをトラとフネさんに任せたいと思う」



「俺と――」

「ウチに?」



 寝耳に水と言った風に、それぞれ自分の顔を指す虎助と美々奈。

「そう。実を明かせば、屋上で作戦会議を開いたのもこのためでもあるんだよ。敵陣営に知られるとまずいしね」

「あれ? ほなウチは? たまたまこうしてそばにおったからとか?」

「違うよ。フネさんにも後で渡すつもりだった。個別にお願いしたいこともあったしね」

「ふ~ん」

 ニヤニヤとやたら卑しい笑みを浮かべて、美々奈は妙に艶かしく御影に詰め寄った。

「えらいウチのこと買ってるやん。どういう風の吹きまわしなん?」

「別に買ってはいないよ。ただ、自分が不利益となる情報は絶対流さない、そんなフネさんを信じてるだけ」

「ふふふ……なるほどなあ」

 御影の回答に美々奈は気分を良くしたのか、嬉しそうに笑みを零して言った。

「ええよ。請け負うたるわ。そんで、お願いしたいことってのは?」

「B組の個々の情報と、架空フィールドの稼働流域の確認を頼みたい」

 稼働流域? と美々奈が復唱して小首を傾げた。

「前回――去年にやった時は、模擬試験みたいなものでフィールドも校舎以外の設定で狭かったし、禁止区域もあるからどの程度まで行けるか、あらかじめ知っておきたいんだよね」

「ふーん。ひとまず了解。調べといたるわ」

「ありがとう――頼りにしてるよ。異能戦でのにもね」

「ははーん。ウチにケータイを持たせようとしたんは、そのせいやな?」

「察しが良くて助かるよ」

 したり顔になっている美々奈から虎助へと視線を移し、「さて」と御影は話を切り替える。

「トラには今回、D組の隊長をお願いしたいんだ」

「隊長? 隊長はミカだろ」

「僕は司令官的立場に徹するよ。だから現場での指揮はトラに任せたい」

「うーん。要領えんな。俺に合ってる役目とも思えんのだが」

「そんなことないよ。トラは思い切りがいいし、とっさの判断力もある。リーダーシップ性もあるし、トラ以上に隊長に相応しい人間はいないよ」

「買いかぶり過ぎな気がするが、けどそこまで評価されてんじゃあ、断るわけにもいかねぇな」

 勝気に笑んで、「いいぜ」と虎助は親指を立てた。

「で、具体的に何すりゃいいんだ?」

「主に奇襲と罠の設置かな。トラの異能なら得意分野でしょ?」

「なるほどな。オーケー。全力で期待に応えてやるよ」

「信頼してるよ」

 これで下準備は整った。後はもろもろ調整するだけだ。

「ところで、ミーくんは何するん? 司令官やるってゆうてたけど、みんなに指示するだけなん?」

「基本的にはそうかな。それも絶対に見つからない場所で」

「絶対に見つからん場所?」

「なんだそれ?」

 美々奈と虎助の疑問に、御影は焦らすように一旦ペットボトルの中身を飲み干し、たっぷり間を開けて、こう意味ありげに言葉を発した。



「二人とも、かくれんぼの必勝法って知ってるかい?」


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