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ヴィーガンについての記憶

 初めに言っておくと私はヴィーガンではない。好きな食べ物は焼肉。刺身もビールと共にパクリ。そんな私なのだがヴィーガン料理は好んで食べる。実はアレルギーがあり、乳製品や卵が口にできないからだ。ヴィーガン料理店なら動物性の物を使用しないため、安心して口にできる。だからヴィーガンを排除しろという空気はあまり好きじゃない。ヴィーガン料理店が消えたら私は一生洋菓子が食べられなくなってしまう……パンケーキ、プリン、ソイバタークッキー……。
 ところでヴィーガンとベジタリアンの違いはご存知だろうか。ベジタリアンは菜食主義者。ヴィーガンはベジタリアンの中の一種で、ベジタリアンの中でも厳格で乳製品、卵も食べられない。と、定義されている。SNSでもヴィーガンだと名乗る人達がセンセーショナルな絵を用いて動物を殺して食べるのはやめよう、なんて訴えている。ちょっとトラウマになりそうな絵だ。
 何年か前のこと。私の体を気遣って彼氏がヴィーガンの店にデートで連れて行ってくれた。デザートで出されたチーズケーキに目を輝かせてパクリ。ああ幸せ。お洒落な姿でスイーツを食べる姿の自分が窓ガラスに映る。小さい頃憧れては叶うことないと絶望していた姿がここに。
「本物のチーズそっくりでしょう?」
 店長が嬉しそうに語る。実はチーズを食べたことがなくて本物のチーズの味が分からないんです、と答えると店長は驚く。本物のヴィーガンなのか、と問われてアレルギーだと答えると、納得がいったように頷いた。どうもお客さんの半分くらいは実はアレルギーの人らしい。
「この子はラクトヴィーガン※なんだよ」
 店長が店にいた黒い肌の女の子を指す。女の子はにっこりと笑った。ラクトヴィーガン、と繰り返すと彼女が片言の日本語で教えてくれる。ヴィーガンというのはそもそもインドの田舎の信仰宗教から生まれたものであるということ。日本やヨーロッパで言われるような厳密なヴィーガンは実はインドの田舎では見たことがないそう。そもそも集落の宗教ごとに食べて良い物、食べてはいけない物が異なる。そのため、いちいち人の食べる物に目をつけて、口出ししてしまっていては大戦争になってしまう。だから皆何を口にしようと実は寛容であること。彼女の場合は牛乳は飲んでも良いらしい。
「このチーズケーキ、本物と味同じだよ!」
 ラクト『ヴィーガン』の彼女が教えてくれる。店長が嬉しそうに胸を張る。店長はヴィーガンでも何でもない。だから本物を再現できる。ヴィーガンの人達に無理やり本物を食べさせるのではなく、本物そっくりの味をプレゼント。
 店にお弁当を取りに来た外国人らしい男性が顔を出す。ヴィーガンの話をしていたのだと言うと、良いね、なんて言う。彼は宗教上、魚のみが食べられない。その代わり、店長が魚の味を再現したという弁当を嬉しそうに受け取る。
「また来てね」
 店長が手を振る。私の舌の上で、パフェの底に溜まった、ソイクリームの優しい甘さが溶けていく。

※……注意。彼らは『ラクトヴィーガン』など口にしていましたが、インターネットで調べると『ラクトベジタリアン』と出てきました。どちらが正しいのかは分かりかねますが、ヴィーガンの考え方としては彼らがより正確なのかなと思ったことと、当時の会話をそのままに書いたため『ラクトヴィーガン』とさせていただきました。

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