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読書メモ56

『塩と運命の皇后』集英社文庫ウ15-1 ニー・ヴォ∥著 金子 ゆき子∥訳(集英社)2022/09

連作中編二作がおさまった薄い文庫で軽く読めると思ったら大間違い。
児童文学チックな表紙に目を引かれたものの、中身は大人のファンタジー文学でした。
訳者あとがきの「十二国記」「守り人シリーズ」に近いっていう解説に、全然違うから!って全力で突っ込みましたとも。架空王朝歴史ものって設定は同じでも、世界観がまったく異なりますってば。

枠物語的な構成がまず面白い。歴史秘話ともいえる歴史の真実を収集して歩く聖職者チーを聞き役として次々と暴かれていくエピソードの数々。前半の「塩と運命の皇后」では遺物とでもいえる古い品々(この描写がまた絢爛豪華)をきっかけとして語り手ラビットが皇后にまつわる秘密を明かしていく。「あなたに理解できる?」って決めゼリフにシビれます。
クライマックスに明かされるであろう核心に読者が自らたどり着けるようになっていて、そうだろうなと確信しつつもその場面では鳥肌たちましたー。
後半の「虎が山から下りるとき」ではこの手法を更にアレンジし、人食い虎から身を守るため、チーが語り、虎の女王が訂正して語り直すという趣向。虎とマンモスとの戦闘も迫力でしたー。
シリーズ続編があるらしく、日本語訳発売を切に待ちたいです。



『オリエント古代の探求 日本人研究者が行く最前線』前田 耕作∥[ほか]著 清岡 央∥聞き手 編(中央公論新社)2021/04

面白かったです。オリエントの遺跡発掘で活躍している日本人研究者九人のインタビューをまとめたもの。コロナ禍の中でも対面取材にこだわったということで、研究を志したきっかけ、大切にしていること、視点の置き方、などなど、地道な作業なのだけども、驚きと興奮にあふれた現場の雰囲気がとてもよく伝わってきました。

冒頭は最年長者、1933年生まれの前田耕作さんのお話からなんですが、もうしょっぱなからきました。
戦時中いじめを跳ね返すために勉強したこと、戦後の混乱の中親友のおかげで本が読めたこと、文学部に進学できたこと。学生たちの気風、恩師たちの存在。
大学が海外に調査団を派遣することが一大プロジェクトで、現地の外交官の尽力もあってって、人や時代の熱い空気感みたいのをすごく感じました。

内戦によって調査ができなくなったり文化財が損なわれたりと破壊がつきまとうのもこの地域ならではだと改めて。

〈バーミヤンの体験からいえることは、これからの遺跡調査では、三次元の映像データを残すのが必須になるということです。タリバンにせよ、シリアやイラクで文化遺産を破壊したイスラーム過激派組織「イスラーム国」(IS)にせよ、文化的に重要視されているゆえに標的とし、破壊するという新しい現象が生まれてきています。
 近年の技術は、レーザーなど新たな科学的結実も使ってさまざまな測定が可能で、それによって得られた各種のデータをもとに、いつでも復元できるようになりました。破壊されてもまた復元してみせることで、破壊の無意味さを知らしめることもできるのです。〉(p43)
〈文化というものは、そんなに無益なものでしょうか。文化の活動なしには、「生」の基本的で豊かな持続可能性は担保できないことを、新型コロナウイルス禍が痛切に私たちに教えてくれました。人間はパンのみにて生きるにあらずです。
 私たち考古学者の文化を捉える視点も変わったと思います。昔はすぐ「ナントカの起源」を求めました。(中略)今は違います。文化が交差する生き生きとした現場を見つけることが重視されています。文化というものは、たとえどんなに離れているようでも同時代的な共鳴がある。その現場を見出し、その具体的な在り方や仕組みを示すことで、現代に新しい提言を行う。それが考古学の大きな使命だと私は感じています。〉(p45-46)



『オッサンの壁』講談社現代新書2658 佐藤 千矢子∥著(講談社)2022/04

〈私が思うに「オッサン」とは、男性優位に設計された社会で、その居心地の良さに安住し、その陰で、生きづらさや不自由や矛盾や悔しさを感じている少数派の人たちの気持ちや環境に思いが至らない人たちのことだ。いや、わかっていて、あえて気づかないふり、見て見ぬふりをしているのかもしれない。男性が下駄をはかせてもらえる今の社会を変えたくない、既得権を手放したくないからではないだろうか。
 男性優位がデフォルトの社会で、そうした社会に対する現状維持を意識的にも無意識のうちにも望むあまりに、想像力欠乏症に陥っている。そんな状態や人たちを私は「オッサン」と呼びたい。だから当然、男性でもオッサンでない人たちは大勢いるし、女性の中にもオッサンになっている人たちはいる。〉(p13より)

いっとき「ひるおび!」を毎日見ていたころにコメンテーターとして出演してた千矢子さんの本だーと軽い気持ちで手に取って見たところ、すっごい内容が濃かったです。思わぬところで政治の勉強にもなりましたし。

いやしかし、オッサンが当然のように繰り出してくるセクハラがひどい。本当にひどい。男性社会の中でそういうめにあったとき、的確なアドバイスをくれたり庇ってくれたりするのもまた男性で、周りにそんな人がいてくれるかどうかの人の縁に左右されるところは大きくて、もーほんと泣けますね、泣けました、私は。

連合の芳野友子氏の会長就任や、記憶に新しい高市早苗氏と野田聖子氏の自民党総裁選立候補について、女性が貧乏くじを引かされただけではないか、真逆のスタンスの女性ふたりが立候補といっても男社会に同調しているのは同じじゃないのか、なんてもやもや感じたことをすっきりとまとめてくれてもいて、そういうことかとすっきりもできました。
さも女性が活躍しているかのような話題を見てもやもやしている人はきっと多いですよね。「女性差別なんか全く解消されていないのに、さも解消されたように振る舞っている世の中はちょっとおかしい」です。

〈私がずっと「女性初の○○」という言い方を嫌がってきたことも、自己満足に過ぎないと思うようになった。次の世代に目が向いていない。(中略)我慢して男性優位社会に同調し、同じような社会を次の世代に渡すのは、身勝手だと考えるようになっていった。〉(p149-150)

〈女性の生きづらさは、男性の問題でもある。女性が生きづらい社会は、男性だって肩肘張っているが本当は生きづらい社会なのではないか。〉(p233より)

クオータ制どころじゃない、パリテ法くらいの勢いで女性議員や女性管理職を増やすべきって私は思います。

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