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読書メモ㊿

『晴明変生』森谷 明子∥[著](角川春樹事務所)2022/09

幼少時代の安倍晴明をはじめ、あのヒトやこのヒト、あんなヒトまで! というふうに、平安時代のビッグネームたちの知られざる活躍を覗き見ているような、小ネタ満載で史実や古典に詳しければ詳しいほど楽しめるお話だと思いました。でもでも、知識がなくてもじゅうぶん面白いです。

というのも、この作者のデビュー作でやっぱり平安時代のお話の『千年の黙』を読んだときにはそこまで思わなかったのですが、この作品はすごく読みやすいなと。
説明を最低限に抑えながら、かつ、ちゃんと描写に混ぜ込んでいるから物語世界の中に入り込みやすくめっちゃ読みやすかったです。
なるほど、こういうふうに書けたらいいなー。

さらには登場人物がみんな一筋縄ではいかないキャラばかりで、肝心の葛丸=晴明がいちばん影が薄いという。
小次郎の朴訥さがよかったし(だからこそ終章でアーッ!!ってなる)
師輔のチャラい若殿ぶりが特に素晴らしかった(笑) 気の強い皇女さま方を相手にタジタジになってるのが愛嬌があって良かったです。


『タイムマシンに乗れないぼくたち』寺地 はるな∥著(文藝春秋)2022/02

別冊文芸春秋に掲載された7編の短編集。
どのお話もわかる、わかる~と共感しながら読みました。どのお話もラストではじんわり涙が。「夢の女」は特にいろんな意味で痛かった。
自分の日常に近いリアルな、だからことばたちがすうううっと細く長く胸にしみこんできゅうううっとなるお話に久々に出会えました。良かった。


『夜の少年』ローランプティマンジャン∥著 松本 百合子∥訳(早川書房)2022/05

息子を好きすぎる不器用な父親が妻に先立たれ父子家庭となって子育てに奮闘しながらも言葉が足りないゆえに親子関係をこじれにこじれさせたまま悲劇に至るとこうなるというリアルなお話。
政治信条を違えてしまったことが決定打となるっていうのは日本の家庭だと想像しにくいことだけど、どんどんボタンをかけちがえていってしまう関係性は日本の言葉足らずな父息子の間でもよくあることで胸が詰まります。
淡々と語られる父親の述懐のあとの息子からの手紙、お約束とわかってはいても泣きます。
思想や行動の偏りはどうあれ、悪い人間なんていなくて、少しのめぐりあわせの悪さでこうなってしまうって恐ろしさと共に、家族が憎み合っているわけでも、ご近所さんが冷淡なわけでもなく、支えてくれる人はいるっていうのが暖かくもありました。

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