「何で生きてるのかなんて、とっくの昔に忘れちまったよ」
そして車窓の外を眺める。ため息をつく。くたびれたシャツが空調の効かない寒い冬の車内で特徴的に見えた。
「それが思い出せたら、死ねるんだろうかね」
彼はぼんやりとした彼流の喋りでそう言った。僕はただそれを聞くだけだった。彼はその無言に何を思うこともなさそうに手にしていた缶ビールを煽った。
「やってられねぇよな、何たって、心にいいもんが体には悪いってんだからよ」
別に心にもいいわけではないだろう、と思ったが、僕はやはり何も言わなかった。
「お兄さん、俺はよ、ただ自分の人生は自分でやりたかっただけなんだ。自分だけでやるべきだと思ってたんだよ。でもそれは、やるべきだ、と、そう言われてきただけだったんだぜ。泣ける話だろ?」
また、一口。あとどれぐらいあの缶の中には残っているのだろうか。
「そのくせ、『コイツ』なしにはどうしようもできなくなってた。自分じゃ、どうしようも――でも、そうでもなきゃ、苦くて苦くて、な」
そうですか、とも言わない。
ああ、早く何とかしてくれ。車掌さん。運転手さん。僕でも誰でもいいから、誰か何とかしてくれ。