心霊、パニック、サイコ、コズミック、サスペンス、因習村……普段はひと口にくくられる『ホラー』ですが、その実多様なジャンルを内包しています。
 そしてその中のひとつに「モキュメンタリーホラー」なるものがあること、みなさまはご存じでしょうか? 元々は映像作品においてフィクションをドキュメンタリー風に演出する手法で、それをホラーに用いたものがこのモキュメンタリーホラーというわけですね。ちなみに有名な映画作品として『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』がありますよー。
 で。その大きな特徴はジャンルと言いつつあくまで表現手段であり、すべてのホラージャンルに適用できるという点。しかも主人公が当事者である必要はなく、事件と間接的に関わっただけの——文献を見た、当事者から話を聞いた等々——報告者でもいいのです。書く側にとって表現の自由度が高いことはもちろん、インターネット怪談などの現代ホラーとも相性抜群。本当に魅力的なジャンルなのですよ。
 そんなわけで、今月は伸びしろしかないモキュメンタリーをテーマとした4作をご紹介させていただきます。創意と工夫に満ち満ちた恐怖に息を飲み、じわっと背筋を震わせてくださいまし。

ピックアップ

誰かを急かし、呼び寄せる、言の葉

  • ★★★ Excellent!!!

 ホラー作家である牧野周二がネタ探しの中で仕入れた3つの小話、そこには不可思議な共通項があった。どれも少し恐いだけの体験談でありながら、かならず公園という場所が登場し、「ハヤク……オマエモ……コッチニコイ……」の言葉で締めくくられるという共通項が。そのことに興味を惹かれた周二は、3人の話の舞台である土地へと向かう。

 注目していただきたいのは構成という名の仕掛け。1〜3話は別々の誰かの語りをそのまま書き起こしたものなのですが、基本的に段落分けされておらず読みにくい。でも、この“そのまま感”がリアリティをいや増し、4話めで登場する主人公の周二さんによる考察をもって、他愛なさの奥に潜む恐怖の気配を浮き彫りにするのです。外連味に頼ることなく静々と盛り上げていく展開、目を奪われずにいられません。

 かくて周二さんは向かった先でひとつの真実に気づくのですが……顛末を見届けた後、ぜひ前の3話を読み返してみてください。きっと初見とは違う感想と感慨を味わえますから。



(「恐怖へ迫るドキュメンタリー=モキュメンタリー」4選/文=高橋剛)

御都久市の恐い話、まとめました。

  • ★★★ Excellent!!!

 怪談マニアなら知っていて当然の怪奇スポット、“御都久市”。都心からほど近い中小都市であるこの市にはさまざまな怪談や都市伝説があり、それらの投稿を募集する掲示板と、さらに管理人によるまとめブログが存在していたのだが——そのサイトが閉鎖され、管理人からの依頼で“私”がアーカイブ化作業をすることになったのだ。

 架空の地方都市で誰かが体験した恐い事件を綴った短編集となります。その設定だけでもおもしろいのですが、直接の語り部である各話の主人公(当事者)だけでなく、アーカイブ化を担当した“私”という間接的な語り部が置かれていること。これがすばらしいのですよ。

 第三者である“私”と事件との距離感は、話に付け加えられる「投稿者コメント」をもって閲覧者/読者に「のぞき見る」風情、すなわち気軽さ・気安さを演出します。そしてネットという場の有り様を巧みに映した構造、それが醸し出すリアリティを確かな見所として機能させるのです。

 掲示板を眺める感覚を味わえるちょい恐なお話です。


(「恐怖へ迫るドキュメンタリー=モキュメンタリー」4選/文=高橋剛)

呪いの写真に写る彼女はいったい何者なのか?

  • ★★★ Excellent!!!

 自らの死を予見していた知人が“私”へ渡した1冊のスクラップブック、そこにはさまざまな事件に関する資料がまとめられていた。なんの関連性もないはずの事件であるはずが、すべてに1枚の“呪いの写真”が関わっていて……。思うところは多々ありつつも、“私”はまとめられていた内容を書き起こす作業を開始したのだった。

 各話で綴られるものは過去に起きた事件の記事やネットに投稿された体験談等々、それぞれなんの繋がりもないはずの情報です。そしてその端々に現れる、見たら呪われるとの曰く付きな「ヨシエさんの写真」は、ただのオカルト話なのです。でも、情報の断片がパズルさながら組み立てられて完成されていく、ヨシエさんならぬ“城山佳江”の像により、ただのオカルトが最高に最悪な恐怖と成り果せるのですよ。物語を紐解くにつれじりじり這い寄られるこの感じ、たまりませんねぇ。

 本人が登場しないからこそ際立つキャラクター小説、そのおぞましさを背筋で味わっていただきたく。


(「恐怖へ迫るドキュメンタリー=モキュメンタリー」4選/文=高橋剛)

匿名掲示板は今夜も恐い話で大きく賑わう

  • ★★★ Excellent!!!

 「インタ〜ネットやめろ、風呂入って散歩しろ」とトップページに記載されていることから「インヤメ」の愛称で呼ばれるオカルト専門の匿名掲示板があった。そこには日々オカルト系の体験談が投稿され、話題は軽いものから重いものまで多岐に渡る。これはその中から抜粋された話を、つけられたレス含めて綴った短編集である。

 架空の掲示板に寄せられた投稿をそのままの形で構成した本作、ネットらしさがなによりの肝となっています。

 心霊的な恐さはもちろんのこと、ひょんなことから吐き出される人間の恐さもありますし、ささやかな与太話だってある。傍観者の茶化しも含めてそうした種々様々なものを投げ込めるのは、掲示板がモニターの向こうにある一種の異世界だからこそですよね。現世のしがらみに囚われずになんでも言える。舞台としての有り様そのものがモキュメンタリーとして成立している点、実に興味深いじゃあありませんか。

 どこか『聊斎志異』を思い起こさせるごった煮の風情、どうぞご賞味あれ!


(「恐怖へ迫るドキュメンタリー=モキュメンタリー」4選/文=高橋剛)