「短歌」をご存じですか。短歌とは、57577のリズムになっている短い詩のことをいいます。ルールはたったそれだけです。短歌と出会ったとき、こんなに短いのに、どうしてこんなに眩しいのだろう、と思いました。今思えば、わたしにとって短歌が輝いて見えたのは、作った人のたましいの輝き方を知ることができたように思えたからなのかもしれません。短歌は短いですが、短いからこそ、何を言うか、何を言わないのか、作者の大切にしていることや美意識が顕著にあらわれます。それは例えば、ある短い時間にどう踊るか、に近いのかもしれません。わたしたちの短歌には、わたしたちだけの踊り方があらわれ、それに読者として触れられるとき、わたしの心もくるくる踊りだすように感じるのです。
今回は、4名の方の踊り方について考えていきたいと思いますが、この特集を通じて短歌に興味を持ったり、短歌をもっと好きになってくださるとうれしいです。

ピックアップ

「終わり」の切り取り方が秀逸で、詠まれた世界を追体験できる一首

  • ★★★ Excellent!!!

「微熱から私が丸くこぼれてく花火みたいな終わりはこない」

「花火みたいな終わりはこない」という下の句がとても印象的でした。たしかに「終わり」というものの大半は花火のようにわかりやすく、うつくしく訪れるのではなく、もっと静かにやってきて、気がつけば去っているようなものなのかもしれません。この静かなイメージと、「微熱」という単語がよく似合っていて、しんしんと悲しみを増しているようです。「私が丸くこぼれてく」という表現もおもしろくて、微熱のからだから、自分自身が輪郭に沿って失われていくような感覚を、わたしは感じました。「丸く」という言葉が感覚を下支えしてくれていて、より具体的な説得力を持たせているところも魅力です。一首を読み進める中で、「しずかな「終わり」によって失われていく自分自身」を追体験できるような感じがして、とても好きな短歌でした。


(「短歌、わたしたちだけの踊り方」4選/文=初谷むい)

前半部分と後半部分の響き合いによって醸し出される切なさが魅力的な一首

  • ★★★ Excellent!!!

「​​リーフパイぼろぼろ 天国行こうって約束をして練馬に行った」

「天国」と呼ばれる場所は、死後向かう場所、何の苦しみもない場所、いまの「ここ」とは異なる場所、というイメージがあります。そんな「天国」へ向かう約束をしたあと、実際に向かったのは練馬だった……。練馬が天国に等しい場所なのか、それとも天国へ行くのは遠い未来の約束で、いまは練馬に向かうことしかできないのか、それはわからないけれど、天国へ行きたい、という感情と、実際に練馬という場所に向かうしかない、という事実はどこかほの暗く、切ない感じがします。この歌のポイントは「リーフパイぼろぼろ」にあると感じていて、この「ぼろぼろ」に現在の自分たちを重ねているような印象を受けます。「ぼろぼろ」は、ぼろ雑巾、などの「ぼろ」を彷彿とさせるとともに、実際に世界から「ぼろぼろ」こぼれていくような感覚を与えてくれ、それは「天国行こう」以下の部分ともよく響き合っているように感じました。


(「短歌、わたしたちだけの踊り方」4選/文=初谷むい)

独特のリズムによって内容に説得力を持つふしぎな魅力のある一首

  • ★★★ Excellent!!!

「指でぬぐったパソコンの埃で きみの涙を思い出す 親指のささくれに滲みたこと」

まず、この短歌は57577のリズムではないことが印象的です。リズムを崩すことがその歌にとって悪くはたらいてしまうこともありますが、この歌では有効にはたらいているように感じます。57577のリズムに対して、全体的に文字数が多くなっているため、この歌を読むときわたしたちは自然と早口のようなリズムになってしまうと思うのですが、そのことが、「思い出す」ことが雪崩のように発生してしまったイメージを呼んできます。一字空けの使い方も絶妙で、ときどき一字空けによる断絶が入ることで、イメージが膨らんでいく余地を読者側に与えてくれています。(短歌では一字空けには全角スペースを使うことが一般的ですが、この歌では半角スペース空けでした。そのため厳密には一字空けではないのかもしれませんが、ここでは一字空けとして読みました。)「ささくれに滲みた」という体感から、まるで今は自分が泣いているような気分にもさせられます。


(「短歌、わたしたちだけの踊り方」4選/文=初谷むい)

息苦しさを作品全体で感じさせるすこし恐ろしくてテクニカルな連作

  • ★★★ Excellent!!!

 短歌には、「連作」という概念があります。いくつかの短歌のまとまりにタイトルをつけることで、一首のみで味わうのとはまた異なる味わい方ができるのですが、この作品は特に、連作として読むことでより楽しむことができる作品だと思います。「バケモノを被っていたら」「お守りが沈んでる」「クリスマスツリーを飲んで」といった息苦しくなるようなフレーズが続き、読み進めるごとに胸のなかに石がどんどん積まれていくような感覚になります。最後の歌、「花を知らない人に花を描かせたことへの拍手みたいな拍手」も「拍手」なのに素直に喜べないような不穏さが漂っています。そして、改めてタイトルを味わってみましょう。「戦車の中はもっと窮屈」。この言葉のつめたい手触りが全体をラッピングして、短歌それぞれがより魅力的に、胸のなかの石はよりずっしりと重くなっていくはずです。


(「短歌、わたしたちだけの踊り方」4選/文=初谷むい)