2026年4月30日 22:50
第1話 同じ夜だったへの応援コメント
私は純文学が書けません。そのジャンルについて調べはしました。空間と余韻で味わいを持たせる。憧れてはいるのですが、どうしても空間があると手を入れたくなるのです。この作品のように、あえて説明を省いているのにも関わらず、読後の味わいがある。読み進める度に、うーんと唸ってしまいます。
作者からの返信
ほんのお遊びです。もしも、春風あくびが「休日出勤、天ぷらそば」を芥川賞狙いで書いたら!?休日出勤、天ぷらそば満たされることが、いつも正しいとは限らない。 終わった、と言い切るには遅い時間だった。 手を止めただけで、仕事が終わったわけではない。 数字や言葉の断片が、まだどこかに残っている。 時刻は一時に近い。 通知が残っている。「今日は何時に終わるの? ケーキ、買ってあるから」 朝に届いたその文面は、まだそこにあった。 「今終わったよ」 打ち込んで送る。 既読がつく前に画面を閉じた。 外へ出る。 冷たい空気が、皮膚に触れる。 人は多い。 それぞれに向かう先がある。 歩き出してすぐに、足が止まる。 匂いだった。 古い引き戸の音。 暖簾が揺れる。 湯気とともに、出汁の香りが流れ出る。 喉が鳴る。 腹の奥が応じる。 彼の顔を思い浮かべる。 ケーキの箱を想像する。 輪郭が定まらない。 暖簾の前に立っている。 中へ入る。 空気が変わる。 席に案内されるまでのわずかな時間が、少し長い。 メニューを開く。 言葉が並んでいる。 温かいもの。「天ぷらそばを」 待つ。 時間は均等ではない。 器が運ばれてくる。 湯気の奥に、匂いがある。 輪郭はない。 けれど、ひとつではないことだけがわかる。 静かなものと、鋭いもの。 沈むものと、わずかに浮かぶもの。 それらが混ざり合い、どこにもぶつからないまま流れている。 一口。 最初に触れるのは温度で、 遅れて、内側に何かが入り込んでくる。 押し返してこない。 そのまま、舌の奥に影のようなものが残る。 消えきらない。 区切りがないまま、次へ続いていく。 噛む。 飲み込む。 それだけで、空いていた場所が埋まっていく。 表面に触れる。 外側はまだ形を保っている。 噛む。 軽い音がして、すぐに消える。 そのあとに、別の層が現れる。 外側とは違う密度。 もう一度噛む。 内側がゆっくりほどける。 熱を含んだものが、遅れて広がる。 油は主張しない。 それでも、消えずに残る。 さきほどのつゆと混ざり、境界が曖昧になる。 どこからがそれで、どこまでが別のものなのか、区別がつかない。 気づけば、器は軽くなっている。 最後のものを飲み干す。 外へ出る。 寒さは変わらない。 歩き出す。 彼のことを思い出す。 ケーキ。 ホワイトデー。 言葉としては理解できる。 距離がある。 スマートフォンが震える。「ホールで買ってあるからね」 画面を見る。 立ち止まる。 考える前に、身体が先に答えを出す。 ――もう、満たされている。 顔を上げる。 駅へ向かう人の流れが、右へ続いている。 しばらく見ている。 足が動く。 流れには入らない。 少し外れた歩道を、そのまま歩いていく。 スマートフォンは、もう震えない。 ポケットの中で、わずかに温度だけが残っている。 それを確かめることもなく、歩き続ける。「満たされた瞬間に、人は関係から外れることがある」ただし、円つみき先生がこれをやると、満天の星が、Orion's Beltになりますよ!春風あくびの作品みたいに!春風あくび
第1話 同じ夜だったへの応援コメント
私は純文学が書けません。
そのジャンルについて調べはしました。
空間と余韻で味わいを持たせる。
憧れてはいるのですが、どうしても空間があると手を入れたくなるのです。
この作品のように、あえて説明を省いているのにも関わらず、読後の味わいがある。
読み進める度に、うーんと唸ってしまいます。
作者からの返信
ほんのお遊びです。
もしも、春風あくびが「休日出勤、天ぷらそば」を芥川賞狙いで書いたら!?
休日出勤、天ぷらそば
満たされることが、いつも正しいとは限らない。
終わった、と言い切るには遅い時間だった。
手を止めただけで、仕事が終わったわけではない。
数字や言葉の断片が、まだどこかに残っている。
時刻は一時に近い。
通知が残っている。
「今日は何時に終わるの? ケーキ、買ってあるから」
朝に届いたその文面は、まだそこにあった。
「今終わったよ」
打ち込んで送る。
既読がつく前に画面を閉じた。
外へ出る。
冷たい空気が、皮膚に触れる。
人は多い。
それぞれに向かう先がある。
歩き出してすぐに、足が止まる。
匂いだった。
古い引き戸の音。
暖簾が揺れる。
湯気とともに、出汁の香りが流れ出る。
喉が鳴る。
腹の奥が応じる。
彼の顔を思い浮かべる。
ケーキの箱を想像する。
輪郭が定まらない。
暖簾の前に立っている。
中へ入る。
空気が変わる。
席に案内されるまでのわずかな時間が、少し長い。
メニューを開く。
言葉が並んでいる。
温かいもの。
「天ぷらそばを」
待つ。
時間は均等ではない。
器が運ばれてくる。
湯気の奥に、匂いがある。
輪郭はない。
けれど、ひとつではないことだけがわかる。
静かなものと、鋭いもの。
沈むものと、わずかに浮かぶもの。
それらが混ざり合い、どこにもぶつからないまま流れている。
一口。
最初に触れるのは温度で、
遅れて、内側に何かが入り込んでくる。
押し返してこない。
そのまま、舌の奥に影のようなものが残る。
消えきらない。
区切りがないまま、次へ続いていく。
噛む。
飲み込む。
それだけで、空いていた場所が埋まっていく。
表面に触れる。
外側はまだ形を保っている。
噛む。
軽い音がして、すぐに消える。
そのあとに、別の層が現れる。
外側とは違う密度。
もう一度噛む。
内側がゆっくりほどける。
熱を含んだものが、遅れて広がる。
油は主張しない。
それでも、消えずに残る。
さきほどのつゆと混ざり、境界が曖昧になる。
どこからがそれで、どこまでが別のものなのか、区別がつかない。
気づけば、器は軽くなっている。
最後のものを飲み干す。
外へ出る。
寒さは変わらない。
歩き出す。
彼のことを思い出す。
ケーキ。
ホワイトデー。
言葉としては理解できる。
距離がある。
スマートフォンが震える。
「ホールで買ってあるからね」
画面を見る。
立ち止まる。
考える前に、身体が先に答えを出す。
――もう、満たされている。
顔を上げる。
駅へ向かう人の流れが、右へ続いている。
しばらく見ている。
足が動く。
流れには入らない。
少し外れた歩道を、そのまま歩いていく。
スマートフォンは、もう震えない。
ポケットの中で、わずかに温度だけが残っている。
それを確かめることもなく、歩き続ける。
「満たされた瞬間に、人は関係から外れることがある」
ただし、円つみき先生がこれをやると、満天の星が、Orion's Beltになりますよ!
春風あくびの作品みたいに!
春風あくび