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  • VHSへの応援コメント

    この作品の奥で静かに支えているものについて、私なりに考えました。

    読み終えてしばらく、「前に進むしかなくなった」という言葉が頭から離れませんでした。

    表面だけ追うと、この作品は大切な人を亡くした主人公が、彼女との記録が残った最後のVHSテープをようやく壊し、前へ踏み出す話に見えます。彼女の「過去に縛られるくらいなら忘れて欲しい」という言葉を、引っ越しという節目にやっと受け取れた話として読むこともできます。

    少し立ち止まって読み返すと、そこだけでは言い切れないものが残りました。

    彼女は「忘れて欲しい」と頼んだあと、少し間を置いてこう続けています。

    「だって私、聡一君とずっと一緒だから」

    この二つの言葉は、どちらも主人公への深い気持ちから来ているのに、同時に置かれるとほどけません。
    「忘れてほしい」は手放すことを求め、「ずっと一緒だから」はそばにいることを保証する。
    それぞれが、相手の言葉の意味を揺るがしている感じがします。

    このVHSが記録していたのは、霞ヶ浦のデート映像だけではありません。
    「忘れてほしい」
    「ずっと一緒だから」
    この二つの、どちらにも決めきれない言葉の組が、テープの中に一緒に入ったまま保存されています。

    主人公が他のテープはすぐ壊せたのに、この一本だけ二年間どうしても壊せずにいます。
    彼女の映像がそこにあったからだけではないかもしれない。
    テープを壊してしまえば、「忘れた」のか「ずっと一緒にいる」のか、どちらにも、けじめをつけられなくなる。
    その二つの言葉の間で宙吊りにされたまま、壊すこともできなかった。
    そういう状態としての二年間があったのかもしれません。

    テープを切ったあと、主人公は「安堵したのか、後悔が溢れ出したのか」と書かれています。
    自分がどちらの気持ちだったかすら判断できていません。

    テープが消えた後も、二つの言葉「忘れてほしい」「ずっと一緒だから」の間の宙吊りは続いているように見えます。

    主人公は「彼女を忘れた」とは言いません。「姿こそ見えないが俺のすぐ側に彼女はいる」と感じています。

    これは「忘れてほしい」がようやく叶ったというより、テープが無くなった後も「ずっと一緒だから」という言葉が別の形で戻ってきているように読めます。

    「忘れてほしい」が成立したのかどうかは、ここでも決まらない。

    だから「前に進むしかなくなった」は、すっきり前を向けたという言葉ではないと思いました。
    忘れることも、忘れずにいることも、どちらにも、けじめがつかない。
    ただ、その決着のつかなさを抱えていた最後のVHSだけがなくなった。
    前に進めるようになったのではなく、立ち止まるための最後の場所が消えてしまったことで、進むしかなくなった——そういう状態として、この言葉は置かれている気がします。

    最後、外に出た先で「あの日と同じように空が赤紫に焼けていた」という場面。
    テープの中の霞ヶ浦にも、今の空にも、同じ赤紫がある。
    記録は壊れてしまったのに、その色だけがもう一度そこにある。
    テープが保存していた映像は消せても、夕焼けは消せない。
    「ずっと一緒だから」という言葉と、この繰り返す空がどこかで呼応しているように感じました。

    彼女が本当にそばにいるのか、主人公がそう感じているだけなのかは、はっきりとはわかりません。
    「忘れてほしい」が達成されたのかも、わかりません。
    そのどちらも決着しないまま、物語は外の空へ出て終わります。

    喪失をきれいに受け入れる話ではなく、解けない言葉の組を預けていた最後の物が消えて、それでも外へ出るしかなかった話。そう読んだとき、「前に進むしかなくなった」という言葉の静かな重さの正体が、少し見えた気がしました。

    作者からの返信

    考察して頂き、ありがとうございます!
    とても深く読んでくださったようで、書き手として嬉しくなりました😭

    よろしければ、他作品もご一読ください!