イノセント・キラーへの応援コメント
「カクヨムでは評価されづらい作品、集え」から来ました。
私は、作品の構造や、その奥にあるものを読むのが好きです。ホラー作品にも、怖さの奥にある仕組みを読む面白さを感じています。
この作品の奥で静かに支えているものについて、私なりに考えました。
◇
一度読み終えて、「悪いことをした人間が、最後に同じように処理される話」として読んだとき、たしかに筋は通っているように見えました。
刃物になるスカート
切り落とされていく手
ニュースで明かされる痴漢の情報
転学した男の子の盗撮の噂
そして終盤で、アカムシの解剖手順がそのまま鏡子自身に戻ってくる場面
表面だけを追えば、因果応報の物語として読めます。
もう一度読み返すと、この作品の怖さは、そこだけではない気がしました。
◇
怖いのは「ちゃんと裁かれたこと」ではなく、「理由があとから上書きされていくこと」だと思いました。
鏡子は、最初から「私が裁いた」とは言いません。
むしろ反対に、何かが起きるたびに、自分をその行為の外側へ置いていきます。
スカートが切った
先生が言ったからアカムシを殺した
言われたから、言われたとおりに指示しただけだった
理由なんてなかった
私の意思ではなかった
この言葉の形が、場面を変えながら何度も出てきます。
ニュースや噂として「悪いこと」は後から出てきます。
それがスカートが切った理由だったのかどうかは、最後まで確認できません。
痴漢だったから切られたのか。
切られたから、痴漢だったことになったのか。
その順番が、読んでいるうちにだんだん分からなくなっていきました。
◇
特に怖かったのは、お母さんが切られた直後です。
鏡子はまず、「お母さんは、何も悪いことをしてないのに」と思います。
でもすぐに、「いや、悪いことをした」と言い直す。
悪いことをしたから切られるのではなく、
切られた以上、悪いことをしたはずだ、という形に、理解が一瞬で上書きされる。
この場面に、鏡子の正当化がいちばん剥き出しになっている気がしました。
しかも怖いのは、鏡子だけが特別におかしい、というだけでは済まないと思いました。
切ったあとで理由を作る。
起きたことに合わせて、あとから説明を上書きする。
そうすれば、誰が切られても、何が起きても、いちおう説明できてしまう。
その形が、鏡子の中でどんどん強くなっていくと感じました。
◇
終盤で、その同じ形が鏡子自身に返ってきます。
鏡子は過去を思い出しかけながら言います。
「理由なんてなかった。だって、それは私の意思ではなかったから」
でも最後に、鏡子を処理する側もこう言う。
「べつに理由なんてないんだし」
この一言が、本当に怖いと思います。
鏡子が他人に向けて使い続けてきた言葉の形——「理由なんてない」「私の意思ではない」——が、今度は鏡子自身に向けて、同じ形のまま戻ってくる。
正義が戻ってくるのではない
道徳的な清算が完了するのでもない
「言い訳の形」だけが、そっくりそのまま反転して帰ってくる感じです。
執行する側も「理由なんてない」と言う。
だから、この終わり方は、単純な「罰」としては組まれていないように感じました。
理由があるから処理するのではない
理由なんてない、という形のまま処理する
鏡子がずっとそうしてきたように。
この作品で本当に閉じるのは、そこなのだと思いました。
◇
最後に残る「考えすぎだよ」という言葉も、読んでいて強く心に引っかかりました。
この言葉は途中まで、鏡子の不安をなだめる声として出てきます。
考えすぎ
気にしすぎ
大丈夫
そういう声があるから、鏡子は立ち止まらずに済んでしまう。
疑惑の影が差したものを、もう一度ふたの下に戻せてしまう。
最後に、鏡子という人物がほどけていくような場面のあとに、まだその声が「聞こえたような気がした」として置かれています。
鏡子が消えていく終局にもなお、「考えすぎだよ」は鳴っている。
これは救いの言葉ではないと思いました。
止まるべきところで、止まれなくさせた言葉だと。
鏡子の不安をなだめていたはずの言葉が、最後には、何をなだめているのかも分からないまま残る。
そこがとても冷たく感じました。
◇
この作品は、悪人が罰を受けて終わる話ではないと思います。
「理由なんてなかった」と他者を処理してきた語り手が、
「理由なんてないんだし」と、同じ形の言葉で処理される。
正義が戻るのではなく、言い訳の形が戻る。
そして鏡子が消えていく最後の場所でも、
「考えすぎだよ」という声だけは、まだ鳴っている。
そこが、この作品のいちばん暗くて、いちばん冷たい中心だと思いました。
作者からの返信
Lina lotus Fluctus さん
お読みいただきありがとうございます。また、作品について深く考察していただき、感無量です……!😭
私たちが直面する事実は、初めから決まっていたことなのか、後から決められたことなのかーー。
一つ確かに言えることは、事実を上書きすることは、未来を創造するよりも、ものすごく簡単だということです。未来は過去になった瞬間、私たちの手の中に落ちてくる。現在《今》を生きる私たちは、未来を作ることはできないけれど、過去は作ることができるのです。たとえ揺るぎない事実があったとしても、自分の中で、そうだった、ことにすればいいから。
因果応報の物語としてだけでなく、作品のうちに潜む"怖さ"の要因にまで触れていただけて嬉しかったです。本当にありがとうございました✨
イノセント・キラーへの応援コメント
狂気的な感じで良かったです。終わり方も素晴らしかったです。
作者からの返信
しき さん
お読みいただきありがとうございます✨
物語に潜む狂気を感じ取っていただけて嬉しいです。ありがとうございます!