第18話

目が覚めると、隣にはシルフィがいる。

その事実に少し恥ずかしくなる。

が、すぐさまベッドから降りる。そして、振り返らずに家を出る。

シルフィは気付かずに眠り続けた。


「朝から並ばないと割りの良い依頼が無くなってるからなぁ」


そうぼやきながら冒険者組合の中に入る。

そして、その依頼を取る。


「サラマンダーの討伐ですか。」

「ああ。少し珍しくてね」


サラマンダー

炎の中級精霊であり、その本質は魔力。

本来は悪人、善人関わらず、好んだ相手に加護を与え、温厚であり、攻撃などはしてこない。

しかし、時々その精霊が暴れ、他者を攻撃することがある。

それを暴走状態といい、戻ることは確認されていない。だからこそ、討伐以外に方法が無いのだ。


「ですが、サラマンダーの生息域は」

「そう、山岳の頂点。」


普通の人には分からないだろう。

だが、あの山岳に、俺は見覚えがあった。

『天地を捧げる金色の山』

それはリアル•マジック•リバイスの世界で金色のサラマンダーと戦う場所。

そして、最も天のエネルギーを受ける場所。

だからこそ、サラマンダーは白焔という火を吹いた。

そのサラマンダーが暴走している理由は二つ。

一つは地脈がずれ始めたから。

地脈がズレたら何が起きるのか?

精霊魔法使い達はその本領を発揮出来なくなる。

その理由は、精霊が地脈のエネルギーを元にしているから。

しかし、一番は、魔物が溢れ、スタンピードという現象が起きる。

スタンピードが一度起これば、街は甚大な被害が起きる。

そして、サラマンダーが暴走しているもう一つの理由は、サラマンダーの許容量以上の天のエネルギーを受けたからだ。


もし仮に、ゲームと同じならこれはスタンピードの初期症状。

しかし、そのスタンピードを防ぎ、さらにはサラマンダーを仲間に引き入れる方法がある。それこそがサラマンダーを弱らせること。

倒すのではなく弱らせる。その天のエネルギーを減らすために。

そして正気に戻ったサラマンダーに、地脈を戻させる。

もしくはスタンピードを迎え撃つ。

また、一人で望む。一人で迎え撃つ。だが、それでいい。

俺は強くなった。それこそ、あの時よりも、誰よりも。


だからこそ、俺は向かい続ける。今度こそ、全てを救う為に。

そうして俺は、歩き出す



◆◇◆◇


『呆れた。呆れて声も出ないわ。だけど、面白い。流石、俺の原体。英雄気取り、様々だな。だけど、残念。今回もまた、そう簡単には行かない。仕方ないから、俺が滅茶苦茶アレンジしてやろう。泣いて喜んでくれていいんだぜ。俺。

しかし、干渉もかなり出来る様になった。これならば…』


手を握り、そして開く。

そして高笑いをしながらその宇宙の様な空間から消えていく。

それは、カルミアの前世の姿に似ていた。


『扉は開こう。

さぁ、英雄達の真祖よ。私の付けを払ってもらおう。もちろん、これも試練として…ね。』



◆◇◆◇


「カルミア?」


真っ黒な空間に、彼はいた。道以外に光はなく。

彼が歩き、ただ離れるのを見守るしか出来ない。

彼女は————シルフィはそれに、嫌な予感を感じた。


「カルミア!お願い!戻ってきて!」


そう叫んでも、彼は止まらない。歩み続ける。

以前、彼は言っていた。


「オルカが死んだのは、俺のせいだ。だから、強くなる。誰の手も借りずに、どんなことでも成し遂げられる様に」


それを聞いて、私は無理だと思った。それでも、彼が自分の父の死を乗り越えたんだと、好意的に受け取った。…受け取ってしまった。

今、彼はきっと、その死地に向かっている。

助けたいのに、助けられない。それがこんなにも、もどかしいとは思いもよらなかった。

カルミアも、こんな感じだったのかも知れない。


「いつでもそばにいるから!助けるから!止まってよ!」


その言葉に、彼は揺らめく。

その言葉に、彼は反応する。

しかし、すぐさま再び歩き出す。


言葉が溢れてくる。押し留めていた感情が濁流の如く流れてくる。


「大好きなんだ。だから…」


その先の言葉を紡ごうとした、その瞬間、視界が変わった。否、世界が変わった。


『その言葉に、偽りは無いね?』

「ええ。」


不思議と心が温まる。不思議と言葉が紡がれる。


『ならば、今すぐ追いかけな。今なら間に合うよ。』

「分かった」

『ヘンダーソンスケールに祝音を』


最後の呟きは、私には理解出来なかった。


目が覚める。夢の内容は覚えている。

それが理解出来た瞬間、急いで走り出す。

その大剣を担いで。

場所は知らないのに、彼が何処にいるのかがなんとなくわかる。

頼れ。と真っ先に言ってやる。

そんな怒りにも似た感情と、不安が混ぜ合わさった感情のまま、私は走り出す。


そうして、私の心の中で眠っていたそれは、眼を開く。


『それは試練である。

それは覚悟である。

それは英雄である。

それは命知らずである。

それは、神が捧げず。

それは、記憶。

それは追悼。

それは———其れは英雄譚の、英雄達の鎮魂歌である。

試練を持って、鎮魂は完了する。』

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