ホラーじゃないけど痛くて残酷な映画

「じゃ、『ホラーじゃないけど痛くて残酷な映画』で」


「それを選びますか? じゃ、覚悟してくださいね」

 カヌキさんはニヤリと笑った。

 覚悟?……覚悟って何? ミヤコダさんは震え上がった。




 それは、アメリカに実在する登山家の実体験をもとにした映画。

 その登山家は、ユタ州の渓谷に向かおうとしていた。自転車に乗り、歩き回ったり、女の子たちと出会ってガイドを買って出たり。彼は赤い渓谷を自由に動き回っていた。

 ところが、岩と一緒に谷に滑落し、岩に腕を挟まれてしまい、動くことができなくなった。

 どうしても岩を動かすことはできないし、腕を抜くこともできない。飲み水もいずれなくなる。どうしようもない時間が経過して、次第に彼の精神状態も危うくなる。そして、彼は決断する。自分の腕を…………



「え、やだ、」

「嘘ぉ」

「……ああぁ」

「…………っ、ふぅ」


 怯える時のミヤコダさんの声は、まるで、時の声のようだ。出会った時に初めてホラー映画を見せた時からカヌキさんはそれを知ってる。


「やだ、痛い、痛い、それ痛いってば……!!」


 まるで、カヌキさんがミヤコダさんに何かエロい ことをしてるみたいだけど、決してそんなことはない。ないんだけど、カヌキさんもちょっと映画に集中できなくなって困ってしまう。


「やだあああぁああぁぁぁっっっ!痛いぃ」

 ラスト、ミヤコダさんは盛大に悲鳴を上げていた。

 そして

 


「え? うそ、これ実話なの?」

 ラストシーン、役者ではなく、モデルとなった登山家がプールで泳ぐ姿を見ることができる。


 ぼたぼたっとミヤコダさんは泣いた。

「すごい、生き残ったんだ」

 悲惨な目に遭う主人公に共感して泣いてしまう、そんなミヤコダさんの情の厚さや感受性に、カヌキさんは、ミヤコダさんのこんなところが好きなのだと再確認する。

「生きてて良かった……」

 ティッシュペーパーを取って、カヌキさんはミヤコダさんの目に当てる。擦らないように、優しく涙を吸い取る。


 全く、架乃、あなたって人は。



 そう思いながら、主人公のために泣いてしまうミヤコダさんのことが、カヌキさんは大好きだ。

 そして、カヌキさんは、

 映画でミヤコダさんを泣かすのも大好きなのである。


「深弥、あなた、わたしが泣くって思って、これ見せたでしょ……?」

「どうでしょうね」


 カヌキさんは、ミヤコダさんの綺麗な手を取って、ティッシュをゴミ箱に捨てた。

 でも、その手を離さなかった。










 この話の続きは最終話の『そして彼女の手の行き先は』になります。

https://kakuyomu.jp/works/822139843509623721/episodes/822139843515969611  

 続きの C『全然ホラーじゃないけど感動』を抜かして、目次に戻るか上のURLに飛ぶかして、次に進んで下さい。お願いします。

 

  

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