合コンで出会った年下男子は恋愛あきらめ女子に恋をする
みなみ なみ
第1話 憂鬱な合コンでの出会い
「本当に今日だけお願いします!人数足りなくて!」
仕事帰りの駅前で、年下の同僚から半ば拝み倒されている理沙。
行きたくない気持ちが伝わるように、大きなため息をついた。
30代に入り、恋愛はもう頑張るものじゃなくなった。
期待しない、傷つかない、波風立てない。
それが一番楽だと、いつの間にか学習してしまったのだ。
「一次会だけね。早めに抜けるから」
仕事での借りがあったこともあり、そう言って渋々参加を承諾した。
メイク直しもせず、さも自分にとっての戦場ではないと言わんばかりだ。
合コンという言葉だけで、胸の奥が少しだけ重くなる。
自分の役割は、重々承知している。
——どうせ、年下のノリについていけないか
——年齢を聞かれて気まずくなるか
——空気のいい“大人役”で終わるか
そのどれかだろう。
しかし、経験を積んだ理沙は、そうなっても空気を壊さない所作は身に着けている。
個室に通され、空気を読んで影響の少なそうな端の席に座る。
それなりの笑顔をふりまき、それなりに空気は読む。
まぁ、2時間程度の辛抱だ。
すでに座っていた男性陣の中で、理沙は一瞬だけ視線を止めた。
一番奥、壁にもたれるように座る男性。
整った顔立ちなのに、やけに静かで、無駄に主張しない佇まい。
自己紹介で25歳と聞いて驚いた。
想像よりもずっと落ち着いて見えたからだ。
「初めまして、浩平です」
低く、柔らかい声。
場を楽しみ笑っているのに、どこか冷静で、周囲をよく観察している。
この人、イケメンなのに落ち着いてるな。
理沙は、少しだけ意外に思った。
自己紹介も一通り終わって合コンが進むと、予想通り場は賑やかになった。
女性陣はテンション高めで、
「仕事なにしてるんですか〜?」
「年上好きなんですよ〜♡」
そんな声が飛び交う。
理沙は、にこやかに相槌を打ちながら、グラスを傾ける。
今日は聞き役。何なら空気。深く関わらず、穏便に。
そう決めていた。
「理沙さんは?」
不意に、浩平がこちらを見た。
「え?」
自分事ではない合コンに、気を抜きすぎて聞いていなかった。
「こういう場、苦手じゃないですか?」
ぼーっとしていたから、心配してくれたんだろう。
茶化すわけでもなく、真剣な顔で聞いてくる。
「……苦手というか、もう頑張る年でもないかなって」
空気を読むはずが、真剣なその表情に思わず本音を言っていた。
しまった、と思いつつも浩平しか聞いていないことを確認し安心した。
浩平は小さく頷き、口元だけで笑う。
その目は、合コンにありがちな“値踏み”をしていなかった。
「キャピキャピした感じは正直しんどいので、僕にとってはそのほうが助かります」
ちらりとキラキラ女子たちに目をやり、苦笑いする。
「あぁ~」
つられて理沙も苦笑い。
意外と毒舌だな、と思っているとそれが伝わったのか
「本音です。ちゃんと会話がしたいので」
その言葉に、こんな男性もいるのかと驚いた。
と同時に、理沙の胸がわずかに揺れた。
期待しないと決めているのに、
“選ばれない前提”で戦わない自分が、少しだけ悔しくなる。
そして、自分の気持ちの変化に、急いで気づかないふりをする。
「理沙さんは、どうして来たんですか」
さも、恋愛相手を探していないのはお見通しとでもいうような質問だ。
「数合わせです」
即答すると、浩平が吹き出した。
「奇遇。俺も」
2人は目が合った瞬間、大笑いした。
個室の中なのに、周囲の音が遠くなった気がした。
しばらくして、隣の席では露骨なボディタッチが始まり、
誰かが「二次会カラオケ行こー!」と声を上げる。
理沙は、そっと時計を見る。
そろそろ抜けようかな、とそそくさと荷物をまとめていると
「帰ります?」
浩平が、小声で聞いた。
「え?うん、もう帰るけど。」
そういうと、浩平は理沙の腕をつかみ、グイッと引き寄せ耳元で
「俺、もう限界です。あざと女子の圧が強くて。
一緒に抜けさせてください」
ドキッとしたのも束の間、その言い方が可笑しくて理沙は声を殺して笑った。
「じゃあ、一緒にこっそり帰ります?」
自分でも驚くほど、自然に出た言葉。
「いいんですか!」
浩平は、まるで子犬のようにうれしそうにしている。
年齢より幼い新たな一面に、理沙もうれしくなる。
会計が終わってわちゃわちゃしているなか、2人はそっと店を出た。
誰にも気づかれないように、静かにこっそりと。
店から離れたところまで来ると、それまで黙っていた2人は、目を合わせて大笑いした。
外の夜風が、思った以上に心地いい。
「こんな合コン初めてです」
浩平が言う。
「私も」
大笑いした涙をぬぐいながら言う。
憂鬱な合コンだったが、今日の“初めて”は不思議と悪くない。
並んで歩き出す二人の影が、街灯の下で重なる。
数合わせで始まった夜は、いつの間にか、
“選び合う前の静かな時間”へと変わっていた。
恋を諦めたはずの心が、ほんの少しだけ目を覚ます音を立てている。
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