異世界に召喚されたら、初日からWi-Fiビデオ面接で「出金」されました。 ~爆破系ヒロインと送る、異世界サバイバル出禁ライフ~

Song

第1話 :召喚は光と共に──からのWi-Fi接続中…

「……え?」


 人生で一番“神々しい瞬間”って、たぶんこれだと思う。

 巨大な魔法陣。床に刻まれた紋章は金色に光り、天井からは羽根みたいな光が降り注いで、神官たちの祈り声が左右から波みたいに押し寄せてくる。


 ――俺、召喚された。


 勇者として。


 そう確信できるだけの演出が、過剰なくらい揃ってた。

 BGMもすごい。天使が歌ってる。たぶん合唱団がいる。どこに。


 なのに。


 俺の視界のど真ん中に、透明な板みたいな表示が浮かんでいた。


《Wi-Fi接続中… ※しばらくお待ちください》


 ……Wi-Fi?

 俺は今、剣と魔法の世界に来た。来たはずだ。

 第一印象が「接続状況」なの、終わってる。


 神官たちが一斉にこちらを見上げる。

 全員が祈り顔で固まっている。祈り顔っていうか、面接官の「初対面の候補者を評価する顔」にも見える。

……俺、もう減点されてない?


 額を床に擦りつける勢いで礼をする神官が震え声で叫んだ。


「おお……勇者様……っ! ついに……!」


 俺も言いたい。「ついに」って。

 でも、こっちは「Wi-Fi接続中」って出てる。


《推定待ち時間:不明》

《接続先:王国採用担当(音声のみ)》

《通信品質:不安定》

 ……まず通信が負けてる。

 採用担当?


 え、採用?

 勇者って採用なんだっけ。いやまあ、選ばれるって意味では採用だけど……それでも“採用担当”は露骨に会社だろ。


 沈黙が伸びる。

 神殿の空気が、神聖というより“面接開始前の静寂”みたいに硬い。


 神官たちは「おお……」のまま動かない。

 兵士たちは槍を握ったまま動かない。

 俺だけが、目の前のUIを見て小さく瞬きを繰り返している。


《接続中…》

《接続中…》

《接続中…》


 ……あ、これ俺、待機列に並ばされてる。


 不意に、空気がぴしっと音を立てた気がした。

 視界の端で光が一段強くなり、神殿に響く合唱が一瞬だけ音量を落とす。


 次の瞬間、俺の耳の奥に、やけにクリアな声が刺さった。


『――では、面接を開始する』


 声は低い。威厳がある。たぶん王様……なんだろうけど、姿が見えない。

 見上げても、玉座っぽい場所に誰も座ってない。空席が、完璧に輝いてる。

 ……誰もいないのに。圧だけある。最悪。


『志望動機を述べよ』


 志望動機。

 いや待って、志望動機って言われても。


 俺、呼ばれた側だよ?

 召喚って、スカウトじゃないの? 


『残業は可能か』


 残業。


 いや、異世界で?

 魔王討伐が残業扱いになる世界なの?

 そもそも勤務時間の概念があるの?


『休日出勤は許容できるか』


 休日出勤。


 急に現代が濃くなった。

 神殿の神聖さが、労働条件の確認で一気にブラック企業の会議室になった。

 これ、天使の合唱じゃなくて入社式のBGMだ。

……俺、終わったかもしれない。


 俺の口が勝手に動いた。


「……いや、顔出せよ、ズルくね?」

 言った瞬間、神殿が凍った。


 神官たちの表情が、祈りから“事故現場”に変わる。

 兵士たちは目だけで俺を刺してくる。槍より目が痛い。


 え、何。そんなにダメだった?


 次の瞬間、俺の視界に新しい表示が追加された。

 透明なUIが、まるで面接シートみたいに項目を増やしていく。


《面接評価ログ:記録開始》

《協調性:−12》

《敬意:−30》

《社会性:−48》

《※暫定》


 ……

 俺は一回だけ瞬きした。

“存在しない”判定じゃん。……社会性って、ゼロより下あるんだな。


『――回答を続けよ』


 声は変わらない。

 冷たいくらい丁寧で、逆に怖い。


「いや、だって……俺、勇者として召喚されたんですよね? 魔王倒せって……」


『そうである』


 即答。短い。刺さる。


『では、志望動機は?』


「志望動機って……魔王倒せって言われたら倒すしかないだろ……?」


『曖昧である』


《主体性:−45》

《熱意:−20》

《社会性:−99》


 いつの間にか項目が増えてる。

 しかも減点がでかい。

 俺の人生、ポイント制で削られていく。


「これ、面接じゃない」

 俺は言い切った。

「減点ゲームだ」


『面接とはそういうものだ』


 怖い。正しいのに狂ってる。

 この世界、ルールが合ってるからこそ逃げ場がないタイプの地獄だ。


 神官のひとりが、汗だくで小声を漏らした。


「ゆ、勇者様……どうか……どうか、王国の未来のために……」


 未来のためにって言うなら顔出してほしい。

 未来のためにって言うなら休日出勤とか言わないでほしい。


 俺が言い返そうとした瞬間、またUIが冷たく光った。


《発言内容を保存しました》

《後から訂正できます(※規約に基づく)》

 ……やめろ。

“※規約に基づく”は、爆弾のピンだ。


『――質問を続ける。ストレス耐性はあるか』


「今、ストレスの原因があなたなんですけど」


 言ってしまった。

 言った瞬間、神殿の空気がさらに凍る。


《口答え:+1》

《反抗傾向:+30》

《再教育対象:候補》


 再教育対象候補!?

 俺、勇者じゃなくて研修枠に回されそうになってる!


『――結論を述べる』


 いきなり終盤の声色になった。

 早い。決断が早い。即断即決がこの世界の悪徳だ。


『不採用。出禁である』


 神官たちが「えっ……」って声を上げる。

 兵士たちが、面接で落ちた人を駅まで見送るみたいな顔をする。

 いや、見送るな。助けてくれ。


 次の瞬間、床の魔法陣が逆回転し始めた。

 さっきまで祝福だった光が、巻き戻しみたいに吸い込まれていく。


「え、ちょ、待って――!」


 世界がひっくり返った。

 胃が浮く。視界が白く潰れる。天使の合唱が遠ざかって、最後に残ったのはUIの無慈悲な文字だった。


《転送処理:実行》

《雇用契約:未締結》

《退場:強制》


 次の瞬間、俺は――城門前にいた。


 風が冷たい。

 石畳が硬い。

 神殿の神々しさなんて一切ない。あるのは現実の硬さと、門番の目の鋭さだけ。


 城門は高い。立派だ。なのに俺だけ、門の外。


「……え? マジで?」


 振り返っても、城門は閉まっている。

 閉まる音が、シャッターだった。


 そして俺の視界に、追撃の通知が出た。


《王国出禁を付与しました》


 出禁。

 勇者に?

 召喚された直後に?


 いや俺、悪いことしてないよな?

 顔出せって言っただけだぞ?

 ブラック企業に顔出せって言ったらクビになったみたいな、最悪のリアリティなんだけど。


 背後から、妙に明るい声がした。


「おめでとうございます!」


 おめでとうございます?

 何が?


 振り向くと、衛兵が笑顔で札を掲げていた。

 札には、やけに親切な文字が大きく書いてある。


【出禁の方はこちらへ】


 ……いや、カテゴリが存在するのやめろ。


 衛兵は営業スマイルのまま、さらに続けた。


 手続き。


 俺の脳が一瞬フリーズした。

 出禁って、自然発生する“嫌われ”じゃないの?

 制度として運用されてるの? しかも簡単なの?


 俺は札と衛兵を交互に見て、思わず叫んでいた。


「手続きあるの!?」


 その瞬間、遠くの城壁の上から、誰かの笑い声みたいなものが聞こえた気がした。

 そして視界の端で、またUIが淡々と点滅する。


《出禁手続き:受付可能》

《所要時間:5分》

《拒否権:未実装》


 ……未実装?

 今、さらっと怖い単語が混ざったぞ。


 城門は閉まり、衛兵は笑顔で、俺だけが門前で立ち尽くす。

 異世界冒険の第一歩が、“出禁受付窓口”って、どういう人生だよ。


「大丈夫です!勇者の出禁は今週3人目です!」


……先輩がいるなら安心だな。何が。

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