物証
その夜、蒼馬は夢を見た。
梶白が襲われた、
祭りの夢を見て以来だ。
空は薄暗く、星が見え始めている。
カラスが鳴きながらどこかへ向かう。
駅に設置された時計の針は
16時を指し、チャイムが流れた。
チャイムが鳴り終えると、
電車の音が聞こえ、
無人駅である夢裡駅から
担任が歩いてきた。
少し後ろには、上下黒のジャージを
着て、フードとキャップを被り、
サングラスをかけた人物がいる。
二人は恋人繋ぎをしながら
楽しそうに会話をしている。
担任の手には、スーパーの袋が
握られていて、料理をするのか、
大量の野菜が入っていた。
険しい山道も気にならないほど
仲良く話し、10分ほど歩いて
山奥についた。
そこにはテントやキャンプ用品が
用意されていて、二人は荷物を置き、
すぐに調理を始めた。
二人きりになり、全身黒ずくめの
人物は、サングラスを外した。
緋心だ。
退学したとしても、未成年と
元担任。噂が広がればクビだ。
周りにバレないように
変装したのだろう。
担任は、サングラスを取った
緋心を愛おしほうに見つめた。
緋心は慣れない手つきで
野菜を切り始める。
担任はそんな危なっかしい姿を見て
微笑み、焚き火台の薪に火をつけた。
火は、徐々に大きくなっていく。
担任「薪、足した方がいいかも。」
緋心「うん!今行く!」
緋心は楽しそうに小走りして
薪の近くに置いてある斧を持ち、
担任へ向かって走って行く。
そして、
担任が振り向きかけたその時、
座り込む担任の頭に
斧を振り下ろした。
緋心「苺花ちゃんもね、一緒にキャンプ
してたんだ。薪が足りないかもって
スマホで調べながら言うからさ、割ったの。
苺花ちゃんを。」
担任には暗くてよく見えなかったのか、
よく見ると、キャンプ道具の
所々に古い返り血が染み付いていた。
蒼馬は飛び起きて、
真っ先に紺野に電話した。
普通は信じてもらえないであろう、
これまでに見た夢の話と
今日見た夢の話を、
紺野は疑うことなく信じてくれた。
おじさんが教えてくれているんだね、と。
学校が終わってからでも
向かえる時間だったことから、
二人で放課後夢裡駅へ向かい、
紺野はもしもに備えて
駅の待ち合い室で待機する事になった。
***
ついに、放課後。
緊張で、いつもは長く感じる
授業もあっという間だった。
二人は15時半頃に着き、
トイレで着替えを済ました。
紺野は蒼馬の服を身につけた。
傍から見たら完全に男だ。
蒼馬は先回りするため、
着替えを終えてすぐに山へ向かった。
夢の通り、駅の時計が16時を指す。
チャイムが鳴り終わると、
電車が発車し、担任と緋心が
駅へ降りて来た。
紺野は蒼馬に
【来た。言ってた通り全身真っ黒】と
連絡をした。
二人は紺野に目もくれず、
仲睦まじい雰囲気で通り過ぎて行く。
二人の背中を見送り、
紺野はいつでも通報が出来るように
スマホを構えた。
約10分後、二人が山へやってきた。
蒼馬は木々の隙間から覗いている。
脇にはビデオカメラを
三脚に設置し、録画している。
順調に夢の通り、時が流れていく。
そして、緋心が斧を取りに
向かった瞬間
蒼馬は紺野へ
前もって準備してあった
「通報して」という一文を送信し、
緋心の元へ駆け出した。
蒼馬「緋心!やめろ!!」
蒼馬の声を聞き、
緋心は走るのをやめ、振り向いた。
怒り狂った緋心は叫ぶ。
緋心「また夢で見たの…?ねぇ…
邪魔するなって、次はないって
言ったよな!蒼馬ぁ!」
甘い声から段々とあの低い声になる。
標的は、担任から蒼馬に変わった。
緋心は凄い剣幕で蒼馬に向かって
走り出した。
その時、
担任が緋心の首に腕を回し
首を締めるような体勢で押さえ付けた。
担任「やっぱりお前だったか…白石と
梶白はどこだ!白状しろ、内赤!!」
緋心「ちょっと…離しなさいよ!
あんたらグルだったの?騙しやがって!」
担任「何人の生徒を見てきたと思ってる?
お前だけなんだよ、二人が居なくなっても
顔色一つ変えずに過ごしてるのは。
私にも色目を使えば騙せると思ったか?
人を馬鹿にするのもいい加減にしろ!」
蒼馬「先生…!」
緋心「誰があんたらを信じるのよ、
この状況を見て。私の勝ちよ。」
緋心は鼻で笑い、その後
「きゃあ~!助けて~!!」
と、大声をあげた。
その声は、山中に響き渡った。
やまびこに応えるかのように
パトカーが数台到着した。
担任が緋心の首に腕を回し、
蒼馬はその向かい側に立つ。
警察から見れば
緋心は人質で、
蒼馬は担任を説得している
そんな風にしか見えない状況だ。
担任「こいつ…!何て奴だ!」
慌てて手を離そうとするも、緋心が
ぎゅっと掴み、離れないようにする。
緋心の必死の演技に、
蒼馬「そんな事をしても無駄だ。」
と、さっきまで身を潜めていた
場所を指さし、警察に話し始めた。
蒼馬「あそこにビデオカメラを設置して
あります。全てのやりとりが残ってます。
先生は被害者です。確認してください。
あとこれ、ボイスレコーダーで会話を
録音済です。あの距離では会話はまで
鮮明には残せませんから。」
警察は蒼馬の指さす方向へ向かい、
ビデオカメラを確認する者と
ボイスレコーダーを聞く者、
蒼馬達に事情を聞く者達で分かれた。
サイレンがひっきりなしに鳴り、
続々と応援が駆けつける。
ビデオカメラを確認し終えた警官達が
緋心の元へやってきて、
警官「ほら、もうお芝居は終わりだよ。
大人しくその手を離しなさい。」と
諭すように告げた。
警官達は少しずつ距離を縮め、
取り抑えようとしている。
だが次の瞬間
緋心が担任の腕を振りほどき、
腕の下から潜り抜け、
山奥に走り出した。
警官「こら!待て!」
複数人に追われながら逃げる。
そして、立ち止まって振り向き、
そのまま笑顔で、
背中から崖へと飛び降りた。
警官達は無線で緋心が飛び降りた事を
伝え、救急車を要請した。
応援のパトカーの内、数台は
崖の下へと向かった。
思いがけない展開に、
蒼馬は身体を震わせた。
担任に支えられながら
警察署へ同行し、事情を聞かれた。
緋心は病院に運ばれ、
意識不明の状態だ。
蒼馬は、今回の事だけではなく
白石と梶白の失踪にも彼女が
関わっていると警察に話した。
今回のように、映像や録音は
していないし、何より実際に
犯行を見ていない。
だが、彼女はもう逃げられない。
自ら髪に、
物証を残しているのだから。
***
その後
緋心の髪をDNA鑑定した結果、
髪に付着していた血液と
白石と梶白のDNA型が一致したと
警察から連絡を受けた。
これで緋心は、回復次第
逮捕される事になる。
ただ、緋心の家や現場となった山を
家宅捜索しても、凶器や被害者二名の
遺体や私物等は一切見つからなかった。
テレビでは、担任への殺人未遂と
行方不明の女子高生二名を殺害した容疑で
元同級生が確保され、現在治療中であると
大きく取り上げられた。
緋心は少年法に守られながら
またも世間を騒がせた。
ニュースでは容疑者は夏頃に高校を
退学した同級生と報道されたが、
緋心と同時期に数名辞めている為
特定される事はなかった。
ましてや、緋心は皆の憧れの存在。
誰だろうねと頻繁に噂話が出るも、
誰一人として彼女を疑わなかった。
蒼馬と紺野は、
誰にも真実を話さなかった。
誰かに話してしまったら、
やっと離れられた恐怖が
また近付いてくる気がして。
担任もまた、同じように
誰にも言わなかった。
三人は、緋心の存在を
記憶の奥底へと追いやった。
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