辺境出身の勇者様は見た目に反して紳士的な模様
茶電子素
第1話 紳士ゴリラ現る
「急ぎの用件につき、至急参内せよ」
と書かれた書面を見た瞬間、嫌な予感がした。
王立魔導研究院の下っ端書記である私、リリア・フェンネルに、
急ぎの用件などあるはずがない。
書類の山に埋もれて生きるのが私の仕事で、
世界の命運などとは無縁のはずだったのに……。
なのに、なぜか私は今、王城の大広間のど真ん中に立っている。
周囲には重鎮たちがずらりと並ぶ。皆、緊張した面持ちだ。
私はその中でひときわ場違いな存在で肩身が狭いにもほどがある。
「リリア、顔が死んでるわよ」
隣で先輩のミレイア・ローレンスがひそひそ声で言った。
「そりゃ死にますよ……なんで私なんかがここに……」
「勇者の案内役に指名されたからでしょ」
「それが意味不明なんですってば!」
そう、今日この場に集められた理由はただひとつ。
――神託で選ばれた勇者が、ついに王都へ到着するからだ。
それだけならまだしも、問題はその勇者の“噂”である。
「ねえミレイア先輩……勇者って、本当にゴリラみたいな顔なんですか?」
「門番が泣きながら言ってたわ。『あれは人間じゃない』って」
「泣くほど!?」
「泣くほど」
私の胃がぎゅっと縮む。
神託が選んだのだから間違いはないのだろうけれど
暴れん坊だったらどうするのだ。
私の魔法なんて、書類を浮かせるくらいしかできないのに。
「でも、なんで私が案内役なんですか……」
「ゴリラがこわ……王城の人手も足りないのよ。あなた、最近仕事が早いって評判だったじゃない」
「そんな理由で命の危険にさらされるの嫌なんですけど!ていうか途中まで本当の理由、出かかってましたよね?」
ミレイアが肩をすくめた瞬間、重厚な扉がゆっくりと開いた。
大広間の空気が一気に張り詰める。
――そして、私は固まった。
扉の向こうから現れたのは、噂通りの“ゴリマッチョ”だった。
身長は二メートルを軽く超え、肩幅は扉の幅ぎりぎり。
腕は丸太のようで、胸板は壁のように分厚い。
顔は……確かにゴリラ寄り。
ただし、毛むくじゃらではなく、彫りが深くて野性味が強いだけ!?
でも、私が固まった理由はそこではない。
彼は、信じられないほど丁寧にお辞儀をしたのだ。
「初めまして。辺境の集落〈グラナ・ロック〉より参りました、ガルド・ロックハートと申します。この度は神託により選ばれた身として、微力ながらお力添えできれば幸いです」
声は低く響くのに、言葉遣いは驚くほど柔らかい。
そのギャップに、私の脳は処理を拒否した。
ミレイアが肘で私をつつく。
「リリア、自己紹介して」
「あ、はい!」
私は慌てて前に出た。
ガルドが私を見下ろす。
近い。
大きい。
圧がすごい。
でも……目は優しい。
「王立魔導研究院の書記、リリア・フェンネルです。勇者様の補佐を……任されました」
「補佐を? それは心強い。どうぞよろしくお願いします、リリア殿」
たかが下級書記官に殿付け。
丁寧すぎる。
私は思わず姿勢を正した。
なんだろう、この人。
見た目は完全に“
話すと“細やかで礼儀正しい紳士”だ。
「では、ガルド殿。まずは王への謁見を――」
ミレイアが案内しようとした瞬間、ガルドがそっと手を上げた。
「その前に、ひとつよろしいでしょうか」
「え?」
「王都に入る際、門番の方が怯えておられました。私の顔が原因かと思うのですが……何か、失礼があったのではと気になりまして」
やはり気遣いが細かい。
というか、気にするポイントが繊細すぎる。
ミレイアが苦笑する。
「いえ、あなたに問題があるわけではなく……その、迫力がありすぎて」
「迫力……?」
ガルドは少し落ち込んだように眉を下げた。
その表情がまた巨大な体格と合っていなくて、私は変な声を出しそうになる。
「ガルド殿、気にしなくて大丈夫です。門番は驚いただけで、悪気はありませんから」
「そう言っていただけると助かります」
彼はほっと息をついた。
その仕草が妙に可愛い。
――いや、可愛いって何だ。
私は何を考えているんだ。
謁見の間へ向かう途中、ガルドは城の装飾に興味津々だった。
「この壁画は古代王国のものですね。保存状態が素晴らしい」
「え、詳しいんですか?」
「辺境にも古代遺跡が多くありまして。幼い頃からよく調べていました」
知的だ。
見た目、暴力の化身のようなゴリマッチョなのに。
いや、偏見だと分かっているけれど、脳が追いつかない。
そして私は思う。
この人、本当に“蛮地の戦士”なのだろうか?
その疑問は、このあとさらに深まることになるのだった――。
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