第3話

また嘘をきく。もう何十回もきいた嘘。

スマートフォンのメッセージに、『体調が悪くて今日のランチは行けそうもないの』と丁寧にキャンセルを申し出た友人に「ちょうど私も都合が悪かったの。だから気にしないで」と心の中で嘘を重ねた。

ずっと前から予約してたレストランにはキャンセルの電話をかけたと、おだやかな美しい声が淀みなくそのことを伝えていた。

『また落ち着いたら連絡させてください』

ヘアアイロンのスイッチは切れてすでに冷たく、ワンピースもクロゼットの中。フェラガモの箱は出しっぱなしで、突然役目を失ったお気に入りの靴がいっそう滑稽に見えた。彼女が読みたがっていた小説は本棚に戻そう。

そうして、ひとつ、ひとつと、心を戻す。

これまで何度もついてきた、誰も傷つかないためであろうその嘘は、ねじまきの様に全てを巻き戻す。

本当は気にして欲しかった。

けれども、世界中で湧いて消えるこの未消化な感情と出来事を、どこかの誰かとつながって共感してもらえるのなら。そう巡らせてはみたけれど、どうでもよくなってしまって、ソファに転がった。外が暗くなるまでまでそうした。流れた髪の先に、先週ポストに投函された不動産のチラシが目に止まる。おまけなのかホチキスで百日草の種が留められていた。

植えてみようか。

説明に書かれていた花言葉を読んだ。

『不在の友を思う』『幸福』『絆』…それは部屋の隅々に、あらがえぬ私のみぞおちに遠慮なく染みて落ちる。

咲くだろうか。期待はしないでおこうと思う。

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