第9話 噂の英雄
今朝少しだけ雨が降ったが、昼間にはすっかり晴れて雲一つ見えない天気になった。畑の野菜は陽気に気付いたのかさらに元気育ってきている。市場はあと二時間で開くはずだ。今日はさらに立派な野菜を届けられるので誇らしい。
「母ちゃん、樽の水をとってきてくれんか」
「はいよ」
「ぼくもやる!」
「はいはい、気を付けてね」
ヨルンとアランは最近しっかりし始めて、時折こうして畑仕事を手伝ってくれるようになった。わしは知らなかったのだが、少し前にどうやら洞窟の中で一晩さまよっていたらしい。それを風変わりな青年が助けてくれたそうだ。
宿屋で唐突に着替え始めた時はひどく困惑したが、幼子を無事に送り届けてくれるような勇敢な若者だと知ってわしは素直に感心した。宿屋の件以来一度も彼に会うことはなかったため、もう一度だけでも会えたらならばぜひお礼を言いたいと思っている。好奇の目で見てしまったことも謝りたい。
「ねえおじいさん、これどこ持って行ったらいいの?」
「あぁそれか、それはこっちだ。ついてきとくれ」
ヨルンとアランは根菜をいくつも脇に抱えて元気よくわしについてきた。この野菜は一晩干さなくてはいけないので自宅の納屋に案内する。畑の柵を抜けて通りに出てみると、晴天の青空の下に見慣れぬものが突如として現れた。
「う、うわぁ!」
「...かっけぇ...!」
通りを優雅に歩いていたのはまるで騎士のような、威風堂々とした男だった。実際は兜で覆われているため男か女かはわからない。だがわしはどことなく前に会ったことがある気がした。
「あんた、なぁちょっと!」
声をかけるとその男は穏やかな動きで振り向いた。そしてわしの後ろで目を輝かせて見上げる双子の少年たちに気が付くと、兜をおもむろに外した。
そこには、目に焼き付いた、しかしもはやその時の青臭さなど微塵も感じさせない立派な青年の顔が現れた。数か月前まで宿屋でぼろきれを着ていた、あの風変わりな若者だ。
「あ! あの時の兄ちゃん!!」
「うそ!! めちゃくちゃかっこよくなってる...!」
子供の成長は早いもので、ヨルンとアランはここのところ背がよく伸びた。だがそれに負けないくらいに青年も逞しくなっていた。あの無表情に近い純粋な顔つきだけは今も変わらず、不思議な印象を与えるのだった。
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