第三話
二日目。
「ケーキが食べたい。持って来てくれ」
野ばらさまが言うと、水島さんは一礼する。
「かしこまりました」
僕もそれに倣った。
厨房まで行き、紅茶とケーキを水島さんが用意する。
古風だから、和菓子を食べるのかと勝手に思っていた。
野ばらさまは洋菓子がお好きなのか。
使っている食器も高級そうだ。
落として割ったら大変だな。
水島さんが僕に話しかける。
「こちらを、野ばらさまにお出しします」
「はい」
「野ばらさまを、あまり待たせないように」
「はい」
僕は野ばらさまにケーキと紅茶を運ぶ。
胸ポケットにある、包み紙の中身を紅茶に入れられると思ったが、できない。
緊張して食器を落としそうになった。
ケーキを目の前にして、野ばらさまは年相応の表情を浮かべる。
「はわわっ、美味しそうだ。いただこう」
野ばらさまは食事作法がきれいだ。
包み紙の中身を入れていたら、今頃この子はーーと想像してしまう。
自分がしようとした行動を考えて、恐ろしくなる。
気づくと、僕は野ばらさまに頬を指で突かれていた。
「あ、あの……?」
「かける、大丈夫か? 声をかけても反応がなかったからな」
「申し訳ありません。僕は大丈夫ですから」
野ばらさまは僕に聞いてきた。
「甘いものは食べられるのか?」
「はい。食べられます」
いったい、なんの質問だろうか。
「水島、あと二人分の紅茶とケーキを持って来い。三人で食べるぞ。付き合え」
「かしこまりました」
いつの間にか水島さんがいた。
「用意は僕が」
言い終わる前に、水島さんは厨房へ行く。
僕も行こうとしたら、野ばらさまに止められた。
「水島に任せておけ。あいつは甘いものが好きだからな。顔には出さないが、喜んでいるのだろう」
厨房へ向かった水島さんは、どこか浮き足立っていたような気がする。
「かけるも、慣れないことをして疲れているようだからな。たまには息抜きも必要だぞ」
年下の少女に気を遣われてしまった。
「あの、僕は……」
言い淀んだら、野ばらさまは寂しそうな表情をする。
「あたしが一緒に食べたいのだ。迷惑だったか?」
そんなことを言われたら、断れない。
「ご一緒させていただきます」
「本当か? 一人で食べるよりも、みんなで食べた方が美味しいからな。嬉しいぞ」
野ばらさまは笑った。
僕の目的を知ったら、この子はどういう表情をするのだろうか。
見たくないな。
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