第12話「空を翔ける二人」

「合わせろ!」

 イグニスの号令と共に、彼から冷気が爆発した。

 王都の熱気を一瞬で凍らせるほどの冷気。それがドラゴンの足元を凍結させ、動きを封じる。

「今だッ!」

 ルッツが地面を蹴った。

 イグニスが作り出した氷の柱を足場に、縦横無尽に駆け上がる。

 ドラゴンの巨体が暴れるが、ルッツの動きは風のように予測不可能だ。

 前世の古武術の動き。相手の力の流れを読み、最小限の動きで回避する。

 ドラゴンの尻尾薙ぎ払いをバク宙でかわし、その背中へと着地する。

「硬いな……これじゃ剣が通らない!」

 ドラゴンの鱗は鋼鉄以上だ。

「ルッツ! 剣に魔力を込める! 受け取れ!」

 地上からイグニスが叫ぶ。

 彼は剣を天にかざし、自身の膨大な魔力を光の束として放出した。

「え、ちょ、無理無理!」

 ルッツには魔力がない。受け止めきれるわけがない。

 だが、光はルッツの剣に吸い込まれるように纏わりついた。

 いや、違う。イグニスが遠隔で魔力をコントロールし、ルッツの剣を「魔剣」へと変貌させているのだ。

「信じろ! 俺とお前の相性ならできる!」

 根拠のない自信。だが、ルッツは笑った。

「了解! 信じますよ、その無駄な自信を!」

 ルッツは剣を逆手に持ち、ドラゴンの逆鱗――首の付け根にある唯一の急所へと狙いを定めた。

 ドラゴンが首を振り、ルッツを振り落とそうとする。

「落ちてたまるかぁぁぁ!」

 ルッツは重力に逆らい、空中で体を捻った。

 イグニスの魔力を帯びた剣が、眩い光を放つ。

「穿てぇぇぇッ!」

 流星のごとく落下し、ルッツは剣を突き立てた。

 ズブリ、という感触の後、ドォォォォォン!と魔力が体内で爆発した。

「ギャアアアアア!」

 ドラゴンの絶叫が轟き、巨体が崩れ落ちる。

 ルッツは反動で空中に放り出された。

「っと……」

 受け身を取ろうとしたルッツの体を、温かい腕が空中で受け止めた。

 風魔法で飛翔したイグニスだった。

「……無茶をする」

 イグニスが苦笑しながら、ルッツを抱きかかえて地上へと降り立つ。

 周囲からは歓声が上がっていた。

「やったぞ! ドラゴンを倒した!」

「すげえ! あの二人、最強だ!」

 ルッツはイグニスの腕の中で、荒い息を吐いた。

「……重くないですか?」

「羽のように軽い。……それに、心地いい重さだ」

 イグニスはルッツを下ろそうとしなかった。

 瓦礫の山となった広場で、二人は見つめ合った。

 戦いは終わった。だが、まだ話すべきことが残っていた。

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