第2話赤い空から降ってくるもの

砲撃ではなかった。


「……音が違う」


ザイラは伏せたまま、耳を澄ました。


低く、一定で、間隔が正確すぎる。

山岳地帯特有の反響を計算に入れた――航空機のエンジン音。


「輸送機ね。しかも複数」


古い双眼鏡で空を覗くと、

雲を割って現れたのはAn-12。

ソ連空軍の主力輸送機。


「空挺か……ちっ」


正面から戦車を叩き込むだけじゃない。

背後を断つ気だ。


「全員、聞け!」


分隊長の怒号が無線に割り込む。


『敵は空挺部隊!

 着地予想地点は第七高地から南斜面!

 装備はAKM、RPK、RPG-7を確認!』


ザイラは歯を鳴らした。


「RPG-7……新しすぎる」


こっちは何だ?


モシン・ナガン


MP40


ブレン軽機関銃(弾は混載)


世代が三つ違う。


「技術格差ってレベルじゃないわね」


「ザ、ザイラさん……」


ミハイルが、腹ばいになったまま声を出す。


「空から……落ちてきます……!」


空が、花開いた。


赤、白、迷彩。

D-6降下傘が次々に開く。


「……少なくとも二個小隊。先遣隊ね」


ただの威圧じゃない。

制圧前提の侵攻部隊だ。


「撃つな!」


ザイラは即座に命じた。


「高度がある。

 今撃っても当たらない」


モシン・ナガンで、

風を読んで、

降下中の標的を撃つ?


無理だ。

それは狙撃じゃなく祈りになる。


「着地を待つ。

 地面にキスする瞬間を撃つ」


分隊の獣人たちが、

無言で頷いた。


女ばかり。

しかも前線向きの肉食獣種が多い。


――消耗前提の部隊。


最初の一人が、地面に降り立った。


「今!」


ドンッ!


ブレンの短い咆哮。

7.7mm弾が、

着地直後の空挺兵を叩き伏せる。


続いて――


「撃て!」


銃声が山に反響した。


だが、すぐに違いが分かる。


ソ連兵は、即座に散開した。


着地→切り離し→伏せ→射撃。


「……訓練されすぎてる」


RPKの掃射が、

岩肌を削る。


「くっ……!」


ザイラは岩陰から身を乗り出し、

一人を狙う。


ボルト操作。呼吸。引き金。


当たった。


だが――


「倒れない?」


胸を撃たれたはずの兵が、

一瞬よろけただけで、

そのまま匍匐で移動する。


「ボディアーマー……」


ソ連はもう、

次の時代の戦争をやっている。


「ザイラさん!」


ミハイルの声。


彼のすぐ横で、

弾が岩を砕いた。


「伏せて!」


ザイラは、

彼を庇うように体を被せる。


「……男は後ろよ。

 前に出るな」


「でも……!」


「命令!」


ミハイルは震えながらも、

歯を食いしばって頷いた。


その瞬間――


「RPG!」


空挺兵の一人が、

筒を肩に担ぐ。


「まずい!」


ズドン!


爆風。


旧式の土嚢陣地が、

一瞬で消し飛んだ。


「……っ!」


ザイラの耳が鳴る。


煙の向こうで、

ソ連兵が前進してくる。


AKMの規則正しい連射。


「……これが、

 ワルシャワ条約の『勧誘』ってわけね」


ザイラは、

歯を剥いた。


ハイエナの獣性が、

喉の奥で鳴く。


「ミハイル」


「は、はい……!」


「次の弾込めて。

 照準は教える」


「え……?」


「撃てとは言わない」


ザイラは、

彼の手を取り、

ボルトを操作させる。


「生き残る準備をしなさい」


旧式装備。

差別構造。

圧倒的技術差。


それでも。


この国は、

銃口で署名はしない。


「――来なさい、赤い帝国」


ハイエナは、

牙を隠さなかった。

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