転生チートだけど10話目で死にます。
@sakigami_KAKU
第1話
俺の名前は天童大貴。所謂転生者という奴だ。
事故で死んだ直後、最初に出会ったのは、神様のような存在だった。顔は覚えてない。というより、顔の輪郭が曖昧で視線を合わせようとすると、脳が勝手に「見なくていい」と判断する感じの朧げな記憶しか残らない。
そいつは、まるで事務作業のようにこう言った。
「君に行ってもらいたい異世界がある。もしそこで英雄と呼べる活躍が出来れば、死後に天国行きを保証しよう。少し調べたいことがあるのだ」
天国行きを保証。人生で一度も言われたことのない言葉。
「調べたいことって何ですか?」
聞いた。普通に。死んだ直後とはいえ、俺は俺だ。
「詳細は言えない。だが、君に無茶な仕事をさせるつもりもない。
それ相応の、必要な力も与えよう」
そう言って、俺に
それも沢山。
元一般人が英雄になるのはまず無理だから、サービスらしい。
神様らしく、口調が少々尊大だったのも覚えている。
次の瞬間、俺は森の中に落ちていた。
体も十五歳相当に変わっていて、持ち物は服とナイフ一本だけ。見知らぬ空気の匂いだけが、やけにリアルだった。
◇ ◇ ◇
今の俺は十六歳。
大国である月影国の隣にある小国、ウェールズで探索者をやって日銭を稼いでいる。
探索者ってのは、ざっくり言うとダンジョンに潜って、素材を回収して、魔物を倒して、依頼をこなす仕事だ。この世界じゃ珍しくもなんともない。むしろまともな職業のひとつ。
……問題は俺が「まともな経歴」を一切持ってないことだった。
戸籍がない。親がいない。出生証明なんて当然ない。
つまり、俺はこの世界に突然「ポップ」した存在だ。
誰かの子じゃない。どこかの村の孤児ですらない。
とはいえ言語は通じたので、意思疎通くらいは出来る。それに加えてこの国の探索者ギルドは、金さえ払って腕が立てば身元が曖昧でも登録ができた。
街に降り、森で採取した素材や獣の肉をどうにか換金。
ギルドでのやり取りは…大体以下の通りである。
「身分証は」
「ない」
「紹介状は」
「ない」
「……じゃあ、保証人」
「いない」
こんな形でも金さえ出せば登録は出来るらしいのだが、ただの孤児擬きよりも実力のある孤児擬きの方が今後の扱いは良くなると考えた俺は、一種のパフォーマンスを披露することとした。
換金の過程で少し仲良くなった鍛冶師から融通して貰った拳大の鉄塊を取り出し、握力で握り潰す。次に歪に細くなったそれを手元のナイフで両断、更にその両断された鉄塊を両手で押し付けることでまたくっ付ける…という人外染みた力技である。
鉄塊をまるで粘土細工のように捏ねくり回す俺のパフォーマンスに、受付の人間の顔色が変わった。
「……仮登録。危険等級の依頼は禁止。いい?」
「はい」
◇ ◇ ◇
こうして探索者としての活動を開始することが出来た俺だが、やはりというか何というか、俺の力はこの世界基準における、普通のものでは無いようだ。
この世界の人間が超常的な現象を引き起こす場合、魔力を使って魔法を使ったりするのが主流だ。けど俺の力は、そういう「魔力の流れ」に乗ってないらしい。
だから余計に気味悪がられる。
俺も気味が悪い。
だって、俺自身よく分かってないからだ。
神様から渡されたチート能力。内容だけははっきりしてる。
使い方も、何故か体が知ってる。
まず一つ目。
空を蹴って飛べる。
言葉にすると馬鹿みたいだが、本当に空を蹴れる。足裏に「反発点」を作る感覚がある。踏み台のない場所でも、空中で一歩踏める。二歩目もいける。慣れれば、地上を走るより遥かに速い。
最初に発動した時は、普通に落下した。反発点が作れたのが一瞬すぎて、次の一歩が間に合わなかったんだ。森の地面にめり込んで、周囲の木々が折れた。それでも、怪我一つ無かった。
二つ目。
頑丈すぎる体。
骨が折れない。内臓が破れない。刃が通りにくい。熱も毒も効きにくい。ただ痛みはあるから無敵感はない。むしろ痛いのに壊れないのが嫌だ。身体が「人間のふり」をしている感じがする。
三つ目。
異常な膂力。
ウェールズの街で力自慢と言われてる鍛冶屋がいる。肉やら木材やら…一番最初に換金に応じてくれたのがこの人だ。因みにこの鍛冶師、片手で身の丈もある鉄塊を持ち上げるような化け物である。
その鍛冶屋が、俺の握力を見て固まった。
「お前、何者だ……?」
「孤児です」
「孤児にその腕は生えねえ」
正しい。
俺の力は、体感で常人の数百倍。力を抜けば普通っぽく振る舞えるが、咄嗟に込めると色々壊してしまう。ドアノブとか。
四つ目。
体内のエネルギーを放出する能力。
説明が難しい。腹の奥に熱の塊があって、それを押し出すと「飛ぶ」みたいに出る。拳から。掌から。口からもいけるけど、やったら喉が焼けたので封印した。
この世界の魔法っぽい光や詠唱は一切ない。なのに出る。
しかも威力が洒落にならない。
最初の頃、ダンジョンの石壁に向けて試したら、壁が抉れて奥の空洞が見えた。俺は自分でやっておいて背筋が寒くなった。こんなのを人に向けたら殺人犯だ。
五つ目。
闘気を身に纏う能力。
これは、攻防一体の鎧みたいなものだ。空気が震え、肌の表面に膜が出来る。その膜を超えずに刃は滑り、拳も跳ね返る。何より、自分の動きが軽くなり、身体も軽く、速く、強くなる。
その出力は限界まで抑えて尚、森の周囲一帯から獣や鳥が一斉に逃げ出し、無音になった程……使いどころは限られるが、俺の最大の切り札である。
ただし、これはこの世界のどの技術体系にも当てはまらない。
この世界では、魔力は魔法や術式に使うものだ。火を起こす。風を操る。結界を張る。それ故に、魔力で身体そのものを強化する、という発想は基本的にない。
戦士たちは、ひたすら鍛える。筋肉を作り、技を磨き、反射を鍛え、経験で差を付ける。才能と努力の世界だ。
俺の闘気は、そのどれでもない。
魔力ですらない。
少なくとも、それとはまったく別の動きをしている。
魔力測定の水晶に手を置けば、俺にも反応は出る。だから魔力自体は持っているのだろう。ただ、それを使って何かをした感覚は一度もない。
俺の体は、魔力を「燃料」として扱っていない。
代わりに、神様が押し込んだ何かで動いている。
それが何なのか、名前も理屈も分からない。分かるのは、闘気を纏った瞬間、世界の法則から一段ズレた場所に立つ感覚だけだ。
◇ ◇ ◇
狩った獣や魔物の素材を手に街へと流れ着き、探索者となってからは、主にこの丈夫な肉体と圧倒的な膂力、そしてエネルギー放出だけを武器に探索者として活動して来た。風変り。異物。そういう目で見られるのは、当然だと思う。
それでも、力は本物だ。
探索者として活動して、僅か一年で熟練者とも肩を並べるところまでは来れている。少なくとも、ウェールズ国内じゃ、俺はもう新人扱いされない。
だからこそ、厄介ごとが寄ってくる…その日もそうだった。ギルドの掲示板を眺めていると、背中から声をかけられた。
「天童。お前、暇か」
振り返ると、熟練者パーティのリーダー格の男がいた。
ローウェン・グラント。
剣と盾をメインに据えた戦士で、鍛え抜かれた体と経験で前線に立つタイプだ。俺より結構年上なのに、最近は妙に距離が近い。
「暇なら仕事してます」
「そういう意味じゃねえ。……国境の方で、変な依頼が出た」
国境。月影国との境目。
嫌な予感がした。あの国は大国で、空気が違う。
噂だけでも、軍も探索者も桁が違う。
「変な依頼って?」
男は声を落とした。
「ダンジョンじゃない。海沿いの廃区画だ。調査団が二つ戻ってねえ。魔物の痕跡も薄い。なのに、現場が……壊れてる」
壊れてる、という言い方が引っかかった。
普通、現場が壊れるのは魔物か魔法のせいだ。なら痕跡が残る。なのに残らないってのは、手段が違うってことだ。
俺みたいな。
「で。何で俺に言うんですか」
「月影国側の連中が絡んでるかもしれねえ。……お前なら、逃げ足がある」
確かに俺の足は尋常でなく速い。それに加えて空を蹴って飛ぶ能力。こちらはギルドに見せたことはないのだが……何かの拍子に勘づかれたのかもしれない。
ローウェンは続けた。
「報酬は破格。身元の件も、多少は目を瞑ってくれるって話だ。ウェールズの役所がな。……お前、ずっとこのままじゃいられねえだろ」
それは、核心だった。
戸籍がない限り、俺は「便利な駒」止まりだ。いつでも切られる。誰かの都合で消されても、記録に残らない。
生きる手段が限られている。探索者しか出来ない。探索者をやれなくなったら終わる。
だから、俺は答えを先延ばしに出来なかった。
「……分かりました。話だけ聞きます」
その返答を聞き、彼は少し安堵した顔をした。
この一年は……生きるために。まともになるために。最近では天国行きの保証なんて、正直どうでも良くなっていた。
俺はきっと、強さだけなら英雄に届くのだろう。
でも、その強さを十全に活かしきれる程には器用でもなかった。
◇ ◇ ◇
探索者の主な仕事はダンジョン攻略だ。
だが、国が二の足を踏むような案件や、不確定要素が多すぎて正規兵を出しにくい仕事は、回り回って探索者に投げられることがある。しかもそういう仕事は、駆け出しではなく、ある程度以上の経験を積んだ探索者に限って回ってくる。
今回の件も、たぶんそれだ。
国の正規兵より、危険を承知で探索者をやっている人間の方が、命は軽い。
その代わり、単体での能力は高いことが多い。
命令で動く兵士と違って、探索者は「やばい」と思えば逃げる。
それでも請ける人間だけが残る。
国としては、その方が都合がいい。
失っても責任を問われにくく、成果だけ持ち帰ってくれれば上出来だ。
そういう打算は、嫌でも想像がつく。
◇ ◇ ◇
依頼の詳細を聞くため、指定された場所に向かった。港から少し離れた、海を見下ろす古い建物。今は使われていないらしく、表向きはただの空き施設にしか見えない。
中に入ると、すでに人がいた。
身なりの良い壮年の男性が一人。
背筋が伸び、無駄のない服装で、役人か軍の関係者だろうと一目で分かる。
そして――
その隣に立つ、もう一人。
目を疑った。
年齢は、見た目だけなら十代半ば。透き通るような白の長髪に、宝石のように綺麗な蒼眼、若干の幼さを残した整った顔立ち。どこか庇護欲をそそる、現実味がないほどの美少女がそこに居た。
場違いにも程がある。
俺が言葉を探していると、先に声を掛けてきたのは、その少女だった。
(久しいな、天童大貴)
ぞくりとした。
声は無いが、聞き覚えがある。
事故で死んだ直後に出会った、顔も輪郭も曖昧だった、あの存在。
(……神様、か?)
そう念じただけで、少女は満足そうに頷いた。
(そうだとも。自称ではあるがね)
自称、と付けたくせに、言い切りだった。
(もっとも、あの時は君には男に見えていただろう?)
(……確かに)
(当然だ。あの場では私も君も、魂のような存在だったからな。視覚情報は存在せず、君が見たいように見ていただけだ)
さらっと、理解が追いつかないことを言う。
(そしてこれが、この世界での私の器だ)
少女は、その場でくるりと一回転してみせた。
「どうだい。自慢のボディだろう?」
尊大な態度であるが、態々口に出して言うあたり、本当に自信があるのだろう。妙に堂々としていて、反論する気が失せる。……確かに、神様だと言われたら納得してしまう雰囲気はある。
(今回の仕事を依頼した手前、観測は間近で行うに限ると思ってね)
観測。
その単語が、妙に引っかかった。
「安心したまえ。過度な手助けはしない」
少女――神様は、軽く肩を竦める。
「だが、少なくとも足を引っ張ることはないよ」
それだけ告げて、にやりと笑った。
因みに、横にいた壮年の男性は、クライアントの少女の突然の奇行に少々困惑しているようだった。
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