ある場所の記憶

@koyo-7

第1話 朝の路地

ここ数日、拾えるものがなかった。

この時間になると、置かれているものが増える。


視界に入った袋は、確かめる価値がある。


袋の口を押すと、柔らかいものが崩れた。

中は、まだ温かかった。

口に入れると、すぐに形がなくなった。

噛む必要はなかった。

喉が、何度も動いた。


指に残るものを、確かめる。

手元だけに集中する。

周りの音は、減っていった。


その間に、足音が一つ増えた。

近くを通る人は、少し距離を変える。

進む線が、わずかに折れる。

そのまま、通り過ぎた。


食べる手は、止まらなかった。


袋の中で、音がしなくなった。

もう一度だけ押した。

反応はなかった。


袋の底に、何も残らなかった。

私は、手を離した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る