第6話 優しい罪
セント・クロウの象徴的な街——
ウォール・ディストリクト——
投資銀行・大企業・法律事務所が入る高層ビルが立ち並ぶ、まさに人間の欲が渦巻く街。
弁護士や法曹界を目指す者、御用達な高尚な書店に、ジャスパーはいた。
客は皆、高そうなスーツを着ている男や、
革の上質なスーツケースを持っている。
ヨレヨレのパーカーのフードを被った、ジャスパーはあきらかに異質な客だった。
(チッ…店の連中どころか、客まで俺に目を光らせてやがる)
ジャスパーの目当てはひとつ。
ヴァルデン合衆国の憲法を基礎から学ぶ本だ。
ジャスパーの盗みの技はプロだった。
パンやジュース、
エディとリリーの服、
服に関しては、それなりに安い物を選んで盗んでいた。
例え、新品でも安物なら、ジェームズは気づかない。
リリーを…部屋に呼ぶ以外は、子供たちに全く関心がないからだ。
ジャスパーもエディと同じで頭が賢い子だ。
ただ、悲しい事は、頭の使い道がエディとは違う事だったが、
ジャスパーにとって、それは悲しい優しさと守る気持ちからだ。
——ジャスパーは、優しく悲しい少年だ。
(あった!)
目当ての本を見つけた。
(クソッ!なんだよ、すげえ、分厚いな…)
今回の盗みは、どうにも難しい…
ジャスパーは、どうしたものかと、店内をフラフラと歩いた。
(なんだよ!おっさん!)
高級スーツを着た、ブロンドの髪をした中年の男が、こちらを見ている。
視線を合わせないように、その男の前を通りすぎる寸前…
(あ!そういうことか!
この変態野郎、お前にカモになってもらうよ)
ジャスパーは、男の手前で止まり、隣りで本を選ぶ振りをする。
そして、チラリと男を見て、ジャスパーにしては渾身の可愛い笑みをしてみせた。
男は、直ぐに食らいついた。
「なにか、本を探しているのかい?」
やたらと馴れ馴れしい口調で、
うすら笑みを浮かべる男。
「はい…、
笑わないでくださいね…
僕、弁護士になりなくて、
欲しい本があるけど…
貧しいから…買えなくて…
この、お店にいるのも恥ずかしくて…」
少し涙を滲ませた。
(俺ってすげえな)
男は、ジャスパーの手を取り、
強く握ってきた
「なにを言っているんだい。
君のような志の高い子が、
お金の理由だけでなんて…
僕が、君にその本をプレゼントしてあげるよ。
友人に弁護士も多い、
そうだ!本を買ったら、僕の部屋へ行かないかい?
いろいろと相談に乗れるよ」
そう言いながら、
男は、握っていたジャスパーの手を今度は撫でるように触った。
(気持ちわりーんだよ!
変態野郎が!)
「本当に…?
凄く嬉しいです」
ジャスパーは、男の手を今度は自分が撫でた。
レジで会計をしてる男は、
この後のお楽しみで頭がいっぱいだ。
店を出てから、
「ちょうどいい」高層ビルの谷間を見つけると、男に言った。
「少し…ここに隠れて…しようよ…」
男が否定する理由など微塵もなかった。
ビルの谷間に、
殴られ蹴られた男が転がっている。
ついでに財布から現金も頂戴した。
———
「ほら、これ」
ジャスパーがエディに渡した本は、
合衆国憲法の基礎を学ぶ、
法曹界を目指す者にとり入門書だった。
(——ジャスパー…、
こんな高い本、買えるわけないよね…)
ジャスパーの嬉しそうな顔。
「ありがとう!
凄く嬉しいよ!」
エディは、そう答えてあげる事が、
自分のために、なにかしらの悪事を働いた、
ジャスパーに報いると思った。
事実、
いけない事だと思いつつも、
エディは嬉しい気持ちを隠せなかった。
(ジャスパー、
僕は絶対に弁護士になるからね)
エディは、その場で直ぐに、
読書に耽った。
暫くすると、
リリーが、ジェームズの部屋から戻ってきた。
一年間、
ずっと、
この瞬間だけは、ジャスパーとエディに緊張が走る——。
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