第二話 門扉を叩くは問題児
純白騎士団。宗教国家である大讃頌神聖教公国において、治安保持と軍事の面を受け持つ組織であり、その兵力は十万を超える。
「……で、そこの元団長が俺というわけだ」
「信じがたいな」
「よく言われるよ」
「だが剣の腕は確かだ」
「……調子狂うぜ。で?どうする」
男はしばし考える。このうさんくさい騎士の持つ情報は重要だ。故郷の人間が今どこにいるのか、その手がかりが掴めるかもしれない。
しかし、同時に欠点もある。騎士団に入れば自由に国家間を渡り歩くことはできないだろう。そうなると、手がかりを得ても足が縛られてしまう。
「……なあ、お前よ。その辺の大道芸人から聞いたぜ?金が無いって」
…………
「安定した働き口くらい確保しとくんだな。その点騎士団はいいぞ?仕事も案外楽だ」
……………………
「後あれだ。教公国はメシもうまい」
「チッ」
「おおう、随分気が立ってるな」
「不服だからな」
「不服ぅ?……何だよ、分かりづらいやつだな!」
そう言って肩口をバシっと叩かれる。騎士は半笑いで言った。
「よろしく頼むぜ、……名前聞いてねぇな」
「……ラグナ・ニフルだ」
「……どっちが
「ニフルが族名だ」
「分かった、じゃあラグナ」
「
「……分かったから睨むなラグナくん」
闘技場の位置する小国、賭け事の国であるアロノスからすぐ北。国境線を跨げば、そこは神聖教公国である。シュナイダーが相乗馬車を取り、向かう先は聖都にある____純白騎士団本部だ。
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「よお、久しぶり」
本部前に着き、シュナイダーが衛兵に気さくに声をかける。
一方の衛兵はというと、
「あ、はい。お久しぶりです」
普通の反応だった。
……………………
「なあ、門開けてくれない?」
「あ、はい。ちょっと待っててください。開門だ、開門ー!」
ギシッ
ズゴゴゴゴゴゴゴ……
表面の材質的に、石製の大門が少しずつ開く。門の扉をよく見ると地面に溝があり、
扉はそこで地下と繋がっている。歯車でも使って回転させて開閉しているらしい。
「あれ、こんなだったかな……」
「おい」
「いやせっかくだから押し開けようと思ったんだよ。でも俺がいた時と仕様が違うんだよな」
「前からこうですよ」
とは衛兵の言葉。
シュナイダーをじろりと睨むと、胡散臭い騎士(?)は焦ったように言った。
「……俺は押し開けてたんだって!」
シュナイダーの信用がさらに落ちたあたりで、門がようやく開き切る。
「もう通っても大丈夫ですよ」
「開け切らないと通れないのか」
「危ないので……」
「……俺はよかったのか?」
「………………」
「なんか言ってくれよ、落ち込むぜ俺だって……」
しょげる騎士甲冑姿は正直ちょっと面白かった。
「そこで止まれ」
声の聞こえた方を見やる。一際装飾の多い鎧を纏った騎士がそこにいた。
「お、来た来た」
「貴様、何の要件でここを訪れた」
「……要警戒人物扱いかよ……」
「お前本当に元騎士団長なのか」
「じゃなかったら門前払いだっての」
「私語は慎め、今から貴様らを連行する」
「は?」
「え、マジ?なんで」
シュナイダーはともかく、ラグナには特に罪状はないはずである。
「シュナイダーがまともな奴を連れてくるわけがない」
とばっちりだった。それはもう見事なやつ。
ラグナはゲンナリした。どうしてこんな奴の話に乗ってしまったのか……
取調室まで連行されたラグナとシュナイダー。ここまで連行してきたのはさっきの鎧が豪華な騎士である。
「……で、なんでここまでするんだ?現団長サマ」
「……あなたが自由にしている時程、私の腹が痛む時はないんですよ」
「本当に何したんだお前」
「何もしてないって!」
「どの口が……」
「三年前より辛辣じゃないか!?」
積年の恨みというやつだろう。ラグナはちょっぴり同情した。
「……で、連れ。名は」
「ラグナ・ニフル……ニフルが族名だ」
「……どこ出身だ?」
「もう故郷はない」
「……そうか。神聖語は書けるか?」
「ああ」
「ではこの紙に」
そう言って渡された紙には〈入団希望書〉の文字。
「……………………人員不足なのか?」
「シュナイダーが連れてくるやつは大抵この用事だ」
「なるほど」
「怖」
「あなたが好き勝手するせいでしょうが!」
「怖!」
「机揺らさないでくれ」
「すまん」「申し訳ない」
しばらくの間、万年筆が紙を擦る音だけが鳴っていた。
「記入項目は埋めたぞ」
「ありがとう。……。…………?」
「あ?どした…………ああ、そういう……」
「なんだ」
「これは本当に神聖語なのか?」
「正真正銘そのはずだが」
「マジか、お前筆記体かよ」
「これしか知らないが」
「マジ?」
「ああ」
どうやら筆記体は古いらしく、現在は形を単純にしたものが一般的に扱われているらしい。
しかも地方の
「マジか……そらお前にゃ読めんよ、アルフ」
「くっ……」
「俺が現代版に書き直してから再提出するわ」
「不覚……」
「頼るのだけで悔しがるのなんなんだよ」
「……すまないな。あと書き直しはいい、筆記体を読める事務担当がいたはずだ」
「そうかい。アルフも覚えりゃいいだろ、教えるぜ?手取り足取り」
「断る」
「断るかあ」
「……ラグナくん。とりあえず今日のところは見学程度で、名簿等の用意ができるまでは一旦待っていてくれ。明後日には試験ができるだろう」
「分かった。よろしく頼む」
「ああ、期待しているよ」
「キミら仲良くない?」
「お前と仲が悪いの間違いじゃないか?」
「ひでえや」
お ま け
「団長の名前はアルフというのか」
「ありゃ愛称みてえなもんだ、そのまんまだと長いから略してんだよ。本名は」
「アルフレート・タウアーだ」
「わざわざ会話ぶった斬ってまで自分で言いたかったのか」
「前にアルフォンス・タイバーと間違えて呼ばれたので」
「そんなことあったっけ?」
「チッ」
「舌打ちすんなよ……」
「ラグナくん、これから先苦労が絶えないと思うが、よろしく頼む」
「ああ」
「仲間はずれにしないでくれないかな」
「無理」「無理です」
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