第6話 ダンジョン・アセット ~資材調達は命懸け~

リフォームは順調……と思いきや、大きな壁にぶち当たった。 「健斗、ダメだ。この世界の市販の材木じゃ、俺の設計する『魔圧耐性構造』に耐えられない。もっと芯の強い、**【黒鉄の大樹】**の心材が必要だ」 タクミの専門的なこだわりと、リンが弾き出した「高級建材を買う予算はありません」という無慈悲な帳簿。


結論は一つ。 「自力で採りに行くしかない。……冒険者が集まる『常闇の地下迷宮』の深層に、その樹が生えてるらしい」


健斗は、日本から持ってきた安全靴とヘルメット、そしてタクミ特製の「対魔獣用・測量ポール」を手にダンジョンへ潜入した。


だが、異世界のダンジョンは不動産営業の根性だけで通用するほど甘くなかった。 「鑑定」スキルで罠を避け、なんとか深層の【黒鉄の大樹】まで辿り着いたものの、帰路で想定外の事態が起きる。


「……っ、鑑定に映ってなかった……隠し通路か!?」


背後から現れたランクAの魔獣「ブラッド・ウルフ」の急襲。 健斗は咄嗟に身を挺して資材を守ったが、鋭い爪が脇腹を深く切り裂いた。 「がはっ……、クソ、せっかく手に入れた一等地の……建材……」


意識が遠のく中、健斗は血溜まりの中で倒れ込む。 (……源さん、ごめん。不労所得の夢……ここで終わりかよ……)


「——おい、しっかりしろ! こんなところで死ぬな!」


耳元で響く凛々しい声。 健斗が薄らと目を開けると、そこには白銀の甲冑に身を包んだ、自分より少し年下の青年がいた。 彼の背後には、統制の取れた精鋭の私兵団が控えている。


「回復魔法を! 早くしろ!」


青年の手から溢れる柔らかな光が健斗の傷を塞いでいく。 意識がはっきりしてくると、青年の高貴な顔立ちが見えた。


「……あんた、は……」 「私はこの地の領主、エドワード・フォン・ラングリッツが息子、カイルだ。非公認のエリアで何をしていた? 装備を見る限り冒険者ではなさそうだが」


健斗は痛みをこらえながら、横に転がっている黒鉄の木材を指差した。 「……建築資材の……仕入れです。いい家を……建てるために……」


「資材? 命を懸けてまでか?」 カイルは驚いたように目を見開いた。この国の貴族にとって、家は「与えられるもの」か「奪うもの」であり、自ら資材のために泥を啜る男など見たことがなかったからだ。


「……面白い男だ。単なる物好きか、それとも狂人か。どちらにせよ、父上が管理するこのダンジョンで倒れられては寝覚めが悪い。屋敷へ運べ!」


数日後、領主の館の豪華なベッドで目覚めた健斗に、カイルが尋ねた。 「怪我の具合はどうだ。ところで、お前が命懸けで守ったあの木材……あれで一体どんな城を建てるつもりだ?」


健斗は、枕元に置かれていたリン作成の「リフォーム計画図」をカイルに差し出した。 「城じゃありません。**『誰もが安心して明日を夢見られる、最高の集合住宅』**ですよ、カイル様」


図面を見たカイルの目が、好奇心で輝き始める。 それは、利権と伝統に縛られたこの国の建築概念を根底から覆す、あまりにも機能的で美しい「未来の図面」だった。


「……佐藤健斗と言ったか。その計画、詳しく聞かせてもらおう。我が領地の『空室問題』も、お前なら解決できるかもしれん」


地元の有力者、領主の息子カイルとのコネクション。 大怪我という手痛い「初期投資」は、最強のバックアップという最高の利回りとなって返ってこようとしていた。

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