第11話 友情の悶絶整体と、最悪の誤解
「……分かったよ、吉田。そこまで言うなら、僕の『修行の成果』を少しだけ見せてあげる」
放課後の誰もいない視聴覚室。僕は諦めたように溜息をつき、椅子を並べて即席のベッドを作った。
吉田の「オタクの嗅覚」は危険すぎる。ここで一度、彼を圧倒的な満足(と悶絶)で黙らせておかなければ、僕の「再配置」の秘密が白日の下に晒されるのも時間の問題だ。
「おおっ! ついに翔太氏の『禁術』を拝めるのでござるな! 拙者、期待で胸が躍る……いや、物理的に高鳴っているのでござる!」
「いいから、そこにうつ伏せになって。……骨格矯正していくよ」
僕は眼鏡を外し、戦闘モード(?)に入る。
【スキル発動:マッサージ Lv3 + 治癒系枝:慢性痛完治(アンロック済み)】
実はこっそり貯めていたポイントで、治癒系の基本も抑えていた。
吉田の背中に触れた瞬間、スキルの視界が彼の惨状を告げる。
(……ひどいな。重度のストレートネックに、座りすぎによる骨盤の歪み。これ、普通の整体なら何十回通っても治らないレベルだぞ)
「……よし。いくよ」
僕は吉田の首筋から肩にかけて、指先を深く、そして正確に突き立てた。
「――っ!? ぎ、ぎにゃああああぁぁっ!?」
防音性の高いはずの視聴覚室に、吉田の断末魔のような叫びが響き渡った。
男の場合、スキルの「リラクゼーション効果」は「温泉のような心地よさ」だが、骨格を無理やり正常な位置に戻す際の衝撃は、まさに地獄の激痛を伴う。
「待っ……待つのでござる! 翔太氏、拙者の脊髄が、脊髄がポッキリいってる気が……っ! あ、あがっ、ああああぁぁっ!!」
「動かないで! 今、溜まってた老廃物を一気に流してるから!」
僕は容赦なく、彼の腰から背中にかけて、拳でグリグリと圧をかける。
男には容赦しない。それが僕の、というかこのスキルの仕様だ。
「あ……あ、ああ……っ! 痛い、痛すぎる……! でも、なんだこれ……。痛みの向こう側に、未知の『光』が見える……! 拙者、今……アップデートしてる気が……っ! はぁ、はぁ……っ、もっと……もっと強く叩くのでござる!」
「……ええい、注文が多いな!」
僕は仕上げに、彼の歪んだ腰椎をグイッと捻り、完璧な位置へと矯正した。
バキバキッ、という凄まじい音が響くと同時に、吉田の口から「ふ、ふにゃああぁ……」という、なんとも言えない情けない吐息が漏れた。
その時。
「――ねえ、高木くん? さっきからすごい悲鳴が聞こえるけど……」
ガラリと、視聴覚室のドアが開いた。
そこには、僕を心配して(あるいは見張って)追いかけてきたみゆきさんと、その友人の女子数人が立っていた。
凍りつく空気。
室内では、
汗だくで肩で息をしている僕と、
椅子の上でぐったりと横たわり、顔を赤くして「あ……あぁ……」と恍惚とした表情で喘いでいる吉田。
「…………えっ?」
みゆきさんの顔から、サァーッと血の気が引いていく。
友人グループの一人が、引き攣った笑顔で口を開いた。
「……た、高木くん? 二人で……何してたの? なんだか、吉田くんのズボンが少しズレてる気がするんだけど……」
「違う! これは整体で、服が乱れただけで……!」
「……っ。高木くんの、変態!!」
「えええええぇぇっ!?」
みゆきさんは顔を真っ赤にして、涙目で走り去っていった。
残された友人たちも「……趣味、そっちだったんだ……」と、同情と軽蔑が入り混じったような視線を投げかけてから、逃げるように去っていく。
「……しょ、翔太氏。拙者……なんだか、視界が360度クリアになった気分でござる……」
「……吉田。お前のせいで、僕の学園生活が『本当の地獄』にフライ(飛行)しちゃったよ……」
僕は、力なくその場に膝をついた。
【現在の実績】
累積施術人数:7人(吉田 健一)
獲得経験値:120exp
ボーナスまで:あと93人
男の友情と引き換えに、マドンナからの信頼を完全に失った放課後。
透明化のスキルを手に入れる前に、社会的に透明になりたいと切実に願う僕だった。
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