斬:新 室町幕府
徳田新之助
第1話 プロローグ 将軍、通知OFFに震える
時は戦国。
……いや、「SNS戦国時代」
かつて日本を統治した室町幕府の権威は、今や見る影もない。
第15代将軍・足利義明の朝課は、仏への祈りではなく、手元のスマートフォンのチェックから始まる。
「……まただ。また既読無視(スルー)だ。織田の野郎、昨夜の『上洛のお願い✨』を未読のまま鷹狩りに行っていやがる……!」
義明は、激しい動悸と血圧の乱高下に耐えながら、公式グループチャット『幕府を愛でる会』のメンバーリストを震える指でスクロールする。
織田信長:ステータス「天下布武(笑)」。既読はつけるが返信はない。
武田信玄:山奥すぎて電波が悪く、いつも肝心な時に圏外。
上杉謙信:義理堅くスタンプを送ってくるが、送られてくるのは「毘」の一文字のみ。
三好・六角:すでにグループを退会済み。
「駆! 駆はおらぬか! また私の悪口が匿名掲示板に晒されている! 呪ってやる、全員ブロックしてやるぞ!」
泣きべそをかく将軍の傍らで、側近の天野駆は、耳をほじりながら自撮り棒の角度を調整していた。
「あー、将軍。そんなにカリカリしてるとまたApple Watchに『心拍数が高すぎます』って怒られますよ? 適当にスタンプで煽り返しておけばいいじゃないすか。あ、今の表情いいっすね、SNS映えしますよ」
「他人事だと思って! 私はこの幕府を、このコミュニティを存続させねばならんのだ!」
史実通りの裏切り、史実通りの合戦、史実通りの政略結婚。
しかし、その連絡手段はグループラインとZOOM。
臆病で嫉妬深い「エゴサの鬼」こと足利義明と、やる気ゼロだが時折底知れぬ(?)力を発揮する謎の男・天野駆。
二人が贈る、血圧とWi-Fiの安定を求める「新・幕府再建ストーリー」が、今、インストールされる。
――既読無視の数だけ、殺意(いくさ)が生まれる。
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