第7話 ダンジョンの波紋


 アイラは朝の光に目を細め、

 昨日の配信を思い出していた。


 視聴者は二十人を超えた。

 小さい数字だが、

 自分の戦いを見てくれる人がいる。


「……やっぱり、楽しい」


 剣を背負い、

 街を歩く。


 向かう先は、

 もちろんギルドだ。


 掲示板に貼られた依頼を眺める。

 目に入ったのは、

 中規模ダンジョンの情報。


 危険度は中。

 報酬は少し多め。


「……よし、これにしよう」


 カードを提出し、

 許可を受けると、

 通行証が手渡された。


 地下への階段を降りると、

 薄暗い通路が続く。


 壁には淡く光る結晶。

 足元は湿っており、

 踏むたびに水滴が跳ねる。


 端末を胸元に装着し、

 配信を開始する。


「こんにちは、探索者のアイラです」


 視聴者は昨日より少し多い、

 三十人。


「見てくれて、

 ありがとうございます」


 通路を進むと、

 小型の魔物が現れた。


 ゴブリンとスライムの混合型。


「……動きが速い」


 剣を構え、一歩踏み込む。

 魔物が攻撃を仕掛ける。


 受け流し、隙を作り、

 横から斬りつける。


 画面の向こうで、

 コメントが流れる。


 ――「判断早い!」

 ――「距離感がいいね」


 胸の奥が、

 じんわりと熱くなる。


 奥へ進むと、

 通路が二手に分かれていた。


 右は狭く、暗い。

 左は広く、やや明るい。


「……どっちに行こう」


 考えながら、

 配信画面に向かって説明する。


「右は狭い通路です。

 魔物が少ないかわりに、

 逃げ場がありません」


「左は広い通路。

 少し危険ですが、

 戦いやすいと思います」


 ――コメント:

 「左がいいんじゃない?」

 ――コメント:

 「右はやめとけ」


「じゃあ、左にします」


 剣を握り直し、

 慎重に一歩踏み出す。


 広い通路には、

 ゴブリンが二体待ち構えていた。


 片方は盾を装備し、

 もう片方は棍棒を振るう。


「……やっぱり少し強い」


 一歩後退し、

 距離を取りながら観察する。


 ゴブリンが突進してくる。

 盾で攻撃を受け流し、

 横から斬りつける。


 棍棒は素早く振り下ろされ、

 接近戦で押されそうになる。


 ――コメント:

 「接近戦きつそう」

 ――コメント:

 「よく避けた!」


 呼吸を整え、

 一瞬の隙を突く。


 盾の死角から斬りつけると、

 ゴブリンが倒れた。


 残るもう一体も、

 慎重に距離を取りながら攻略する。


 その時、通路の奥で、

 空気がひんやりと変わった。


「……?」


 大型の魔物。

 体躯が大きく、

 鋭い牙が光る。


 ゴブリンよりも、

 攻撃速度は遅い。

 だが、一撃が重い。


「……来たか」


 剣を構え、

 慎重に前進する。


 魔物が振りかぶり、攻撃。

 受け流し、間合いを取り、

 次の一撃を狙う。


 ――コメント:

 「強そう……!」

 ――コメント:

 「頑張れ!」


 一瞬の隙を突き、

 斬撃を決める。

 魔物が倒れる音が、

 通路に響く。


 息を整えながら、

 アイラは画面に向かって言った。


「無理はしないって、

 大事ですね」


 視聴者のコメントが増え、

 応援の言葉が流れる。


 胸の奥が温かくなる。

 誰かに見られている。

 伝わっている。


 ダンジョンを抜けると、

 外は夕方の光に包まれていた。


 街の音、

 車の音、人々の声。

 現代の当たり前の風景。


「……少しずつ、

 世界が広がってる」


 宿に戻り、

 装備を外す。


 配信終了の表示を見て、

 視聴者数は四十人に増えていた。


「……嬉しい」


 窓辺に立ち、

 街を見下ろす。


 一方、探索ギルドの最上階。


 ギルド長室で、男が画面を見つめる。


「判断は正確だが、

 まだ甘い」


 アイラの戦いを確認し、

 静かにうなずく。


 視聴者のコメントや

 行動の一つひとつを

 分析していた。


 遠くで守る父。

 近くで戦う娘。


 その距離は短くも、

 危険を孕んでいる。


「この先、波紋が広がるな」


 画面に映る笑顔を見て、

 男はわずかに口元を緩めた。


 だが、心の奥では

 警戒を緩めてはいなかった。


 こうして、

 小さな剣士アイラの冒険は、

 新たな波紋を生み出しながら

 静かに、しかし確実に広がっていった。

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