第5話 小さな剣士と広がる世界
朝の光が、
宿の小さな窓から差し込んでいた。
アイラは目を開け、
一瞬だけ天井を見つめる。
「……夢じゃ、ないよね」
探索者カードは、
枕元に置いたままだ。
手に取ると、
昨日と変わらない表示。
名前、職業、
そして――
剣士。
胸の奥が、
少しだけ高鳴った。
顔を洗い、
軽く身支度を整える。
長剣を背負う動作も、
もう迷いがない。
「今日は……
どうしよう」
昨日の配信。
視聴者は十数人。
少ない。
けれど、
確かに増えている。
それが、
うれしかった。
ギルドに向かう道すがら、
アイラは端末を開いた。
配信の記録。
コメントの履歴。
「判断がいい」
「落ち着いてて見やすい」
戦い方を、
ちゃんと見てくれている。
「……次は、
もう少し説明しようかな」
独り言のように呟き、
ギルドの扉をくぐった。
掲示板の前で、
立ち止まる。
依頼は、
相変わらず多い。
「……これ」
選んだのは、
別の小規模ダンジョン。
場所は少し離れているが、
危険度は同じ。
「同じだと、
飽きるかもしれないし」
カードを提出し、
許可を受ける。
ダンジョン前。
入口は、
地下鉄の旧構内だった。
閉鎖されたはずの場所に、
黒い裂け目が口を開けている。
「……ここも、
現代なんだよね」
不思議な感覚。
配信を開始する。
「こんにちは。
探索者のアイラです」
少しだけ、
声が明るい。
――視聴者:6人。
「……来てくれて、
ありがとうございます」
自然に、
笑顔になる。
階段を降りると、
空気が冷たい。
壁に埋め込まれた照明が、
淡く周囲を照らす。
「今日は、
別のダンジョンです」
説明しながら、
歩く。
「同じ危険度でも、
場所が違うと、
魔物の動きが
変わるみたいです」
――コメント:
「説明助かる」
――コメント:
「初心者向けだね」
「……よかった」
少し、
ほっとする。
最初の魔物は、
小型の獣型。
素早いが、
攻撃は単調。
「動きが早いので、
距離を取ります」
一歩下がり、
相手の動きを見る。
隙を見て、
斬る。
獣が倒れる。
――コメント:
「落ち着いてるな」
胸が、
少しだけ温かくなる。
進むにつれ、
魔物の数が増える。
息が上がる。
腕が重い。
「……まだ、
大丈夫」
無理はしない。
深追いもしない。
それを、
ちゃんと守る。
やがて、
行き止まりに出た。
「ここまでにします」
配信に向かって、
はっきり言う。
「今日は、
無理しません」
――コメント:
「判断いい」
――コメント:
「また見たい」
その言葉に、
胸がぎゅっとなる。
「……ありがとう」
ダンジョンを出ると、
外は昼過ぎだった。
人の声。
車の音。
現代の、
当たり前の風景。
「……帰ろう」
宿に戻り、
装備を外す。
ベッドに腰を下ろし、
端末を置いた。
配信終了の表示。
視聴者数は、
二十人を超えていた。
「……増えてる」
大きくはない。
でも、
確実に。
その頃。
探索ギルド、
ギルド長室。
男は、
報告書に目を通していた。
「別ダンジョンを選択……
無理な進行なし」
静かに、
うなずく。
「……賢い」
モニターに映る、
配信の切り抜き。
剣を振るう娘の姿。
「目立ち始めているが、
まだ小さい」
それが、
救いでもあり、
不安でもあった。
「このままなら……
もう少し、
見守れる」
男は、
そっと画面を閉じた。
一方、
アイラは窓辺に立ち、
街を見下ろしていた。
「現代って、
広いな」
魔界とは違う。
でも、
嫌いじゃない。
むしろ――
「もっと、
知りたい」
剣を握る。
心が、
前を向く。
こうして、
小さな剣士の世界は、
少しずつ、
確実に広がっていった。
まだ知らない。
この先、
人気と危険が
同時に近づいていることを。
それでも――
アイラは、
次の探索を思い描きながら、
静かに息を吸った。
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