第29話「祈りを歪める者」

山霧が足元を這う。


レオンは、いつものように先頭を歩きながら、

軽い調子で言った。


レオン:「いやあ、山道ってさ。

こう……冒険してる感あって、嫌いじゃないんだよね」


ミリア:「その割に、足取りが慎重すぎる」


レオン:「気のせい気のせい。

転ぶと恥ずかしいからさ」


セリアは、少し後ろでその背を見つめていた。

(……なのに)


彼の歩き方だけが、

この道を知っている者のそれに見える。


だが、

彼女はその違和感に、名前を与えなかった。


祈りの残骸


古道の途中、

一行は崩れた祠を見つける。


苔むした石像。

割れた供物皿。

そして——黒く染まった御幣。


カイ:「……これは」


カイは剣に手をかける。


カイ:「祈りが、喰われてる」


レオン:「喰われる?」


カイ:「ああ。

誰かが……いや、何かが

人の願いを“餌”にしてる」


その瞬間。


祠の奥から、

ぬちゃり、と音がした。


霧の中から現れたのは、

獣とも人ともつかぬ異形。


骨ばった四肢。

仮面のように固まった顔。

胸元には、無数の紙札が縫い付けられている。


——それらすべてに、

人の願いが書かれていた。


ミリア:「……なに、あれ」


レオン:「うわ、見た目からして友達になれなさそう」


だが、その声には、

いつもの軽さがない。


異形は名を名乗らない。


ただ、

歪んだ声で、こう呟いた。


???:「……祈り……もっと……」


カイ:「来るぞ!」


異形が地を蹴った瞬間、

空気が裂けた。


ミリアが結界を張る。

セリアが符を放つ。


だが——


異形は、

祈りを喰った分だけ、強くなっていた。


セリア:「防ぎきれない……!」


その刹那。


レオンが、前に出た。


レオン:「はいはい、ストップストップ!」


彼が踏み込んだ瞬間、

地面が——わずかに軋んだ。


誰も見逃した。


だがカイだけは、

その違和感に、目を細める。


(……今の、なんだ)


レオンの拳が、

異形の胸に叩き込まれる。


——派手な光はない。

だが、


祈りの札が、一斉に燃え落ちた。


異形は、悲鳴を上げる暇もなく、

霧へと溶けて消えた。


沈黙。


ミリア:「……レオン?」


レオン:「ん?

あー……勢い?」


セリア:「……ありがとう」


彼女はそれ以上、言葉を続けなかった。


カイは剣を収めながら、

一歩、レオンに近づく。


カイ:「今のは……」


レオン:「気合い?」


カイ:「……」


冗談で流す声。

だが、

あれは人の踏み込みではなかった。


遠くで、風が鳴る。


その音に重なるように、

どこか高い場所から、

“視線”を感じた。


——神の側からの。


セリア:「この先に……いる」


レオン:「いる?」


セリア:「祈りを集めている存在。

この異形は、その末端」


ミリア:「つまり、黒幕がいるってこと?」


セリアは、ゆっくり頷く。


セリア:「神を名乗らない神。

……アマテラス」


その名を聞いた瞬間、

レオンの胸の奥で、

何かが——微かに、疼いた。


だが彼は笑う。


レオン:「へえ。

じゃあさ——」


拳を握り、前を見る。


レオン:「文句、言いに行こうぜ」

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