第22話「1人目」

 仮面の獣が消えた後。


 森には、

 不自然なほどの静けさが戻っていた。


ミリア:「……本当に、

     いなくなった?」


レオン:「たぶんな」


 剣を鞘に納めながら、

 軽く笑う。


レオン:「逃げ足だけは、

     立派だったな」


 だが。


 その直後、

 膝がわずかに震えた。


ミリア:「……レオン?」


レオン:「ん?

     あー、大丈夫」


 そう言って、

 立ち直ろうとする。


カイ:「……無理をするな」


レオン:「カイに言われると、

     説得力ないな」


 カイは、

 何も返さなかった。


 ただ。


 自分の手を、

 じっと見つめていた。


ミリア:「……どうしたの?」


カイ:「……さっき」


 短く、

 息を吸う。


カイ:「体が、

    勝手に動いた」


レオン:「ああ、

     速かったな」


カイ:「……俺は、

    そんな動き、

    できない」


 沈黙。


セリア:「……“聞かれた”

     のだと思います」


カイ:「……?」


セリア:「あなたの中に」


 セリアは、

 そっと言葉を選ぶ。


セリア:「“守りたい理由”が

     あるかどうか」


 カイの指が、

 わずかに震えた。


カイ:「……ある」


 低い声。


カイ:「……昔」


 焚き火が、

 ぱちりと音を立てる。


カイ:「俺は、

    守れなかった」


 ミリアが、

 何も言わず、

 耳を傾ける。


カイ:「村があった」


カイ:「山の奥の、

    小さな集落だ」


レオン:「……」


カイ:「“神に捧げれば、

    災いは去る”

    そう言われて」


 拳を、

 強く握る。


カイ:「……妹が、

    選ばれた」


ミリア:「……っ」


カイ:「俺は、

    剣を握ってた」


カイ:「なのに、

    止められなかった」


 火が、

 一瞬、大きく揺れた。


カイ:「……もう、

    二度と」


 その時。


 カイの背後。


 空気が、

 歪んだ。


レオン:「……え?」


 焚き火の炎が、

 逆流するように、

 カイへと集まる。


ミリア:「な、なにこれ……!」


 炎の中。


 赤銅色の影が、

 ゆっくりと、

 形を成した。


???:「……久しいな」


 低く、

 重い声。


カイ:「……誰だ」


???:「名を問うか」


 影が、

 笑った。


???:「我は――

     武甕槌(タケミカヅチ)」



タケミカヅチ:「戦を断ち、

        戦を司る神」


 圧が、

 場を満たす。


タケミカヅチ:「問おう、

        人の子」


 影が、

 カイを見下ろす。


タケミカヅチ:「再び失う覚悟は、

        あるか」


 カイは、

 一瞬も迷わなかった。


カイ:「……ある」


タケミカヅチ:「命を

        削ることに

        なるぞ」


カイ:「構わない」


レオン:「おい、

     即答すんな!」


 だが。


 次の瞬間。


 カイの胸に、

 赤い光が、

 沈み込んだ。


カイ:「――っ!!」


 膝をつく。


ミリア:「カイ!」


 立ち上がった時。


 カイの背に、

 雷の紋が、

 一瞬だけ浮かび、

 消えた。


タケミカヅチ:「契約は、

        成った」


 影は、

 炎と共に、

 消える。


 静寂。


レオン:「……説明、

     してもらって

     いいか?」


カイ:「……俺にも、

    よく分からん」


 だが。


 確かに。


 この一行に、

 最初の神が宿った。


 そして、

 それは始まりにすぎない。

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