第20話「剣」

 夜明け前。


 薄藍の空が、

 野営地を静かに包んでいた。


 最初に起きたのは、

 レオンだった。


レオン:「……やっぱり、あるな」


 剣を引き抜く。


 刃の根元――

 昨日までなかった、

 細い亀裂。


 指でなぞる。


 冷たい。


レオン:「……無理、させたか」


 剣に向けて、

 そう呟いた。


 その背後。


カイ:「それ、

    昨日の戦いか?」


 振り返る。


レオン:「たぶん」


レオン:「いや……

     たぶん、

     もっと前からだ」


カイ:「……買い替えろ」


 即答だった。


レオン:「無理」


カイ:「……理由は?」


 レオンは、

 少し考えてから、

 剣を鞘に戻した。


レオン:「これは、

     俺が最初に

     握った剣だ」


 カイは、

 黙る。


レオン:「神も、

     運命も、

     何もなかった頃」


レオン:「それでも、

     立ってるために

     買った」


 風が、

 草を揺らす。


カイ:「……折れたら?」


レオン:「そんときは」


 笑う。


レオン:「素手で殴る」


 カイは、

 わずかに口元を緩めた。


カイ:「……変わらないな」


 その頃。


 ミリアとセリアも、

 起きてきていた。


ミリア:「おはよー……」


ミリア:「……あれ?」


 ミリアは、

 レオンの剣を見た。


ミリア:「……傷、

     増えてない?」


レオン:「気のせい」


ミリア:「嘘」


 即座に。


ミリア:「レオン、

     いつもそう」


レオン:「……そう?」


ミリア:「自分のこと、

     後回し」


 少し、

 言葉に詰まる。


セリア:「……レオン」


 彼女の声は、

 静かだった。


セリア:「あなたは、

     “選ばれていない”

     のではありません」


レオン:「……?」


セリア:「あなたは、

     “残っている”」


 レオンは、

 目を瞬かせた。


セリア:「神に近づく者たちの中で」


セリア:「人として、

     最後まで

     立っていられる人」


 ミリアが、

 息を呑む。


ミリア:「……それって」


セリア:「ええ」


 小さく頷く。


セリア:「一番、

     壊れやすい役目です」


 レオンは、

 苦笑した。


レオン:「やめてくれ」


レオン:「そういうの、

     柄じゃない」


セリア:「……でも」


 彼女は、

 続けなかった。


 言えなかった。


 ――その剣が、

 いつか。


 彼の代わりに、

 壊れることを。


 遠く。


 森の奥で、

 何かが鳴いた。


 獣の声。


カイ:「……ふう、またか」


 全員が、

 身構える。


 草を踏み分け、

 現れたのは――


 白い骨の仮面。

 異様に長い腕。

 背には、

 焦げた羽。


ミリア:「……影、

     じゃない!」


レオン:「……モンスター、

     ってやつか」


 剣を握る。


 亀裂が、

 わずかに軋んだ。


レオン:「大丈夫だ」


 自分に言い聞かせるように。


レオン:「まだ、

     折れちゃいないさ」


 朝日が、

 差し込む。


 白い仮面が、

 きしりと音を立てて、

 笑った。


???:「……人間が、

     前に立つか」


 獣から名は、

 まだ名乗られない。


 だが、

 確かに。


 アマテラス側の獣が、

 姿を現した。

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