第13話「祓」

 霧は、まだ晴れていなかった。


 朽ちた鳥居の前で、

 異形の獣が唸り声を上げている。


 鬼の面の奥で、

 赤い目が、ぎらりと光った。


レオン:「……で」


レオン:「どうすりゃいい?」


 剣を構えたまま、

 軽く問う。


 だが、

 その声には余裕がない。


セリア:「……祓います」


 短く、はっきりと。


ミリア:「倒すんじゃ、ダメ?」


セリア:「はい」


 頷く。


セリア:「これは、

     神に“触れてしまった”存在」


セリア:「倒せば、

     怨念だけが残ります」


 獣が、

 地面を蹴った。


 再び、襲いかかってくる。


カイ:「――っ!」


 受け止める。


 だが、

 腕が痺れる。


 肩の傷が、

 強く疼いた。


カイ:(……くそ)


 胸の奥が、

 ざわつく。


セリア:「カイさん!」


 叫ぶ。


セリア:「力を、

     使わないでください!」


レオン:「……それ、

     今言う!?」


 獣の爪が、

 迫る。


 避けきれない。


 ――瞬間。


 風が、爆ぜた。


 カイの足元から、

 渦を巻くように、風が立ち上がる。


 踏み込む。


 斬る。


 刃に絡んだ風が、

 獣の体を押し返す。


 鬼の面に、

 亀裂が走る。


ミリア:「……カイ!」


 その声が、

 遠く聞こえる。


 カイは、

 膝をついた。


 息が、苦しい。


 視界が、

 歪む。


 力が、

 抜けていく。


カイ:「……っ」


セリア:「……代償が、

     早すぎます……」


 歯を噛みしめる。


 セリアは、

 懐から、小さな札を取り出した。


 古い文字。


 朱で描かれた、

 封の印。


セリア:「時間を、

     稼いでください!」


ミリア:「了解!」


 ミリアが前に出る。


 光を放ち、

 獣の動きを縫い止める。


レオン:「……っ」


 レオンは、

 カイの前に立った。


レオン:「休め」


レオン:「あとは、

     俺がやる」


 背中は、

 迷いなく前を向いている。


 セリアは、

 札を掲げる。


 低く、

 言葉を紡ぐ。


セリア:「――帰りなさい」


 光が、

 鳥居を包む。


 忘れられた祈りが、

 再び、形を持つ。


 獣は、

 叫んだ。


 怒りでも、

 痛みでもない。


 安堵の声だった。


 鬼の面が、

 砕ける。


 中から現れたのは、

 獣ではなかった。


 ――ただの、

 鹿の骨。


 静かに、

 地面に崩れ落ちた。


 霧が、

 ゆっくりと晴れていく。


 鳥居の朱が、

 わずかに色を取り戻す。


 セリアは、

 深く息を吐いた。


セリア:「……終わりました」


ミリア:「……今の、

     何だったの?」


セリア:「“祓い”です」


 視線を落とす。


セリア:「遅すぎた、

     祈りの代わり」


 カイは、

 まだ立てなかった。


 肩の傷が、

 脈打っている。


 だが――

 少し、静かになっていた。


レオン:「……なあ」


 セリアを見る。


レオン:「カイは、

     どこまで持つ?」


 直球だった。


 セリアは、

 答えなかった。


 ただ、

 目を伏せる。


 それが、

 答えだった。

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