ープロローグー

第0話 Unknown

 夜明け前の山道は、音がない。


 風もなく、鳥も鳴かず、

 ただ、靴音だけが淡々と続いていた。


 男は一人、歩いていた。


 外套は擦り切れ、剣は古い。

 だが歩みは迷いがなく、

 まるで「行き先を決めないこと」だけが決まっているようだった。


レオン:「……寒いな」


 誰に聞かせるでもなく、そう呟く。


 声は軽い。

 けれど、その響きは山に吸われ、返ってこなかった。


 道の脇に、倒れた石灯籠があった。


 火は消え、

 中にあったはずの灯は、砕けている。


レオン:「もったいないな」


 彼は立ち止まり、しゃがみ込んだ。


 灯籠の中に、

 砕けきらず残った小さな石がある。


 淡く、弱く、

 それでも確かに光っていた。


レオン:「……まだ、生きてるか」


 彼はそれを拾い上げ、

 懐に入れた。


 理由はない。

 ただ、そうした。


 その瞬間。


 背後で、気配が揺れた。


 人ではない。

 獣でもない。


 見られている、という感覚だけがあった。


???:「……」


 声は、聞こえない。

 だが、確かに“意志”がある。


レオン:「……誰だ?」


 剣に手をかける。


 だが、返事はない。


 ただ、

 夜の空気が、ほんの一瞬だけ重くなり――

 次の瞬間、すべてが元に戻った。


レオン:「……気のせい、か」


 彼は肩をすくめ、剣から手を離した。


 その判断が、

 正しかったのか、間違っていたのか。


 この時、誰も知らない。


 歩き出そうとした、その時。


 山道の先で、かすかな声が聞こえた。


子ども:「……たすけて……」


 即座に、足が動いた。


レオン:「おーい!」


 声のした方へ駆ける。


 そこには、崖の縁で立ちすくむ子どもがいた。


子ども:「こ、怖くて……動けない……」


レオン:「大丈夫。俺がいる」


 何の迷いもなく、手を差し出す。


 子どもが掴む。


 その瞬間、足元の石が崩れた。


 ――だが、落ちなかった。


 レオンの体が、

 “ありえないほど自然に”踏ん張っていた。


 自分でも、理由は分からない。


レオン:「……ほら、いける」


 子どもを安全な場所へ引き上げる。


子ども:「ありがとう……!」


レオン:「気にすんな。夜道は危ないからな」


 それだけ言って、背を向ける。


 名も聞かず、

 礼も求めず。


 再び、歩き出す。


 山を越えれば、街があると聞いていた。


 白陽――

 眠らぬ灯の町。


 彼はまだ知らない。


 自分が拾った小さな灯が、

 これから出会う“祈り”と“神”を引き寄せたことを。


 そして――

 あの夜、

 名を持たぬ“何か”に、

 確かに見定められていたことを。


 男は笑った。


レオン:「……ま、なんとかなるか」


 そう言って、夜明けへ向かう。


 それが、

 すべての始まりだった。

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