第10章:二重生活の始まり
これを境に、一真と良枝の間には、奇妙な二重生活が始まった。
家の中では、相変わらずの母と息子。父の健一がいる前では、普通に会話し、食卓を囲む。しかし、スマホを握ると、二人は「プリウス」と「ベル」に変身した。
さらに、LINEとは別に、二人だけの秘密のトークルームを作った。そこでは、以前のように甘いメッセージが交わされるようになった。
「今日もベルさんのことばかり考えていました」
「プリウス君の声が、頭から離れないの」
「会いたい…もう一度、あの時計台の前で」
家では顔を合わせるときはぎこちないのに、トークルーム上では熱い恋人同士。この分裂が、かえって背徳的な興奮を増幅させていった。互いが互いを「ママ」「一真」と呼ぶ現実と、「ベルさん」「プリウス君」と呼び合う虚構の狭間で、二人の感情はより複雑に、より深く絡み合っていった。
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