第5章:決行

アプリで出会って一ヶ月半。二人はついに直接会うことを決めた。


細かい住所はお互い明かさなかったが、同じ東京都内に住んでいることは確認していた。待ち合わせ場所は、新宿駅南口改札を出たところにある、大きな時計台の前。日時は土曜日の午後三時。


前日、一真は緊張でほとんど眠れなかった。どんな人なのか。写真がないから、全く想像がつかない。でも、あの温かいメッセージをくれる人だから、きっと優しくて、美しい人に違いない…。そんな期待と、漠然とした不安が入り混じる。


一方、良枝もまた、自宅のリビングでスマホを握りしめ、複雑な思いを抱えていた。女友達の不倫話を聞くうちに、どこか他人事のように「そういう世界もあるのね」と思っていた。スマホの広告で「ヴェール」を見かけ、女性は最初一ヶ月無料と知り、少し退屈していた日常に、ほんの少しのスリルを求めて登録したのが始まりだった。遊びのつもりが、「プリウス」という青年とのやり取りが、想像以上に心に深く入り込んでしまった。彼の純粋さ、鉄道への情熱、時折見せる無邪気な言葉が、長年埋もれていた自分の中の何かを揺さぶった。夫である健一との関係は、平穏だが、どこか惰性のようなものになっていた。プリウスとのメッセージは、久しぶりに心が躍る体験だった。しかし、会うとなれば話は別だ。これは明らかな背徳行為だ。でも、やめられない。会いたい。プリウスに会いたい。


続く...

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