えっ、ヴァイオレット兼任の真祖って魔王じゃなく女勇者なの?
幕ノ内ゴルトムント悠
第1話 私変態です。
第一話 私、変態です。
私、変態です。
こう書くと、たいていの人は身構えるだろう。
紫の髪の色をしてまるで赤ワイングラスが似合うようなエレガントで、穏やかな肌の色が仄かに灰色のような肌色をしている女性。消して厚化粧でもないのに、フランスのシャンソンやオペラのような、密度の濃さを、女性勇者の小さな身体から発している。
だが安心してほしい。ここで言う変態とは、露骨な意味ではない。
私はただ、自分の立場と役割に対して、どうにも妙な執着を持っているだけだ。
私は吸血鬼の真祖だ。
それも、紫の髪を持つ。夜に生まれ、血に祝福され、幾千年も生きるはずの存在である。
普通なら、魔王と呼ばれる位置に座る。城に籠り、世界を呪い、英雄を待ち受ける。
それが、物語としては正しい。
現代は悲しみを悲しみとして嗅ぐアンテナや、繊細さが、アカデミズムや、きらびやかな、ブルジョアジー、ITの便利さによって、埋没している。
しかし、この異世界ナーロッパは、生活のなかに、本物の宗教と芸術が溶け込み、都会的二デコレートされていないため、何もかもが生臭く、生きとし生けるものは、原始的な世界に立たされる。
ヴァイオレット逆刃刀勇者深雪ヘミングは、悲しみを肌身に、生業にできたのは、そんな時代背景があった。
悲しみを巣にするから、倫理的な正しさより、人間的な善と悪や錬金術がわかる。
そんな時代の、ナーロッパだ。
けれど私は、勇者をやっている。
逆刃刀勇者とは、比喩であり、実際は剣ではない。
決して殺さない。
霊界の尊厳を守るための勇者だ。
剣は持たない。
代わりに、古い魔法の杖を携えている。
その杖の先には、青い光が宿っている。月明かりに似ているが、月よりも嘘がない。
私は戦う。
だが、世界を滅ぼすためではない。
誰かを救うためでも、正義のためでもない。
ただ――
自分が魔王でないことを、何度も確かめるためだ。
変だろう。
真祖が、勇者を名乗るなんて。
だが私は、魔王という言葉が、どうしても好きになれなかった。
あれは、便利すぎる名前だ。
世界の責任を一人に押し付けるための、安っぽい箱だ。
私は、箱に入るのが嫌だった。
旅の途中で、みかんみたいな頬をした二枚目のオタクマニアみたいな僧侶に出会った。
眼鏡をかけた、少し頼りない男だった。
祈るよりも本を読み、神よりも音楽を信じているような顔をしていた。
しかし、そうではなかった。彼は誰よりも、キリストの教義を厳格に守るオタクで、ルール以外のものとの隔たりに大きな壁を作っていたためであった。
では、なぜ、背徳で異端である彼女を受け入れたのか?
それは、他の勇者よりも、霊界のルールを守っているモンスターハンターではない、匂いを嗅ぎ分けたからである。
彼は、私が吸血鬼だと知っても、驚かなかった。
ただ、少し困ったように笑って、こう言った。
「勇者、というのは……案外、変な人がなるものですから」
私はその言葉を、気に入ってしまった。
だから今も、彼と一緒に歩いている。
血を吸わない真祖。
魔王にならない化け物。
勇者を名乗る吸血鬼。
どう考えても、まともではない。
だから、もう一度言っておく。
私、変態です。
けれどこの世界で、
正気だけで生きていける人間なんて、
一人もいないでしょう?
――第一話・了
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